【話題の本】『野生のアイリス』ルイーズ・グリュック著、野中美峰訳

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■自然、神との愛憎交じる対話

2020年のノーベル文学賞を受賞した米詩人による初の邦訳詩集。9月の刊行から1カ月余りで3刷が決まった。「厳粛な美しさで個人の存在を普遍的なものにした」(ノーベル文学賞の授賞理由)という美質は1993年のピュリツァー賞を受けたこの詩集でも味わえる。

〈苦しみの果てに/扉があった〉という言葉で始まる本書は、草木あふれる庭が舞台。詩人と自然、それらの創造主である神が愛憎入り交じる対話を重ねる。詩人は神に孤独の寂しさをぶつけ、神は詩人に厳しくも愛のある言葉を投げかける。〈あなたはどういう理屈でもって/死ねばいいと/いつもは思っている/雑草の一本を/大事に抱え込むの?〉。クローバーが人間にそう抗議する一編に触れ、幸運を求めて四つ葉のクローバーを探した経験を思い出す人もいるかもしれない。

本書は詩人が一編の詩も書けなかった沈黙の2年間を経て生み出されたという。「アイリスが真っ暗な地中で過ごした冬を越え、地上に顔を出し花開くまでの再生の詩は、国が違っても読者に光を見せてくれる」と担当編集者。平易な言葉でつづられた日常が、神話の世界と重なり、奥深い余韻を残す。(KADOKAWA・2530円)

海老沢類

産経新聞
2021年11月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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