不妊治療後に夫を“卒業”して「不倫」にハマった47歳女性の“馬鹿みたいなプライド”

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


どうして彼女は…?(※画像はイメージ)

「厄介なことに、男と女の間には自尊心が絡んでくる。特に、始まりと終わりには」

“恋愛小説の女王”と称される直木賞作家の唯川恵さんは、これまで数多くの恋愛小説を執筆してきた。だが、この“女王”が書き下ろした新作は、これまでの作品とは一線を画すものとなっている。

 新著『男と女』(新潮新書)を執筆するにあたり、唯川さんは、幅広い経験を持つ36歳から74歳までの女性たちと対話をした。彼女たちが実際に経験した「恋愛」を聞き出しながら、それぞれのケースに独自の分析を試みるという趣向の一冊である。
冒頭に紹介した一文はその分析から生まれた、“恋愛小説の女王”ならではの金言と言えるだろう。

 この本の第1話に登場する47歳の女性は、不妊治療後にハマった「不倫」について赤裸々に告白している。一体、何が彼女をそうさせたのか。唯川さんとの対話から垣間見える彼女の心理を覗いてみよう。

※以下は『男と女』(新潮新書)の「第1話 不倫はするよりバレてからが本番」の一部をもとに再構成しました。

***

■37歳から始めた不妊治療

由宇さん(47歳・仮名)は初対面でいきなりスマートフォンの写真フォルダーを見せて来た。

フォルダーのタイトルは「お料理」。料理が得意な彼女は、日々の食卓の風景を写真で記録し、こまめにSNSにアップしているという。

「40歳で仕事を辞めてから、お料理をがんばるくらいしか充実感とか達成感がなくて。これと言った趣味もないですし」

とは言え、他にも旅先やお洒落なレストラン、カフェでのショット、最近購入した持ち物、インテリアなどの写真が並んでいる。

こまめに写真をSNSにアップする人は、承認欲求が強いと聞くが、彼女はどうなのだろうか。

その前に、まず仕事を辞めた理由から聞いてみよう。

「子供が欲しかったんです」

ああ、なるほど。

「結婚したのは28歳で、彼とは学生時代から付き合っていました。結婚するのはこの人とずっと思っていたから嬉しかったですね。新婚当初は毎日が楽しくて、仕事と家庭の両立も少しも苦になりませんでした」

まあ、新婚時代はみなそんなものだろう。

「しばらくはふたりで楽しみながら生活の基盤を固め、貯金もして、35歳になったら子供を作ろうって計画を立てていました。仕事は好きだったし、生まれてからももちろん働くつもりでいました。仕事は事務機器の営業で、外回りや接待もあってハードだったんですけど、やりがいも感じていましたし、生活はうまくいっていたと思います。夫とも仲がよかったし。それで35歳になって、いよいよ子づくりに取り組んだんです」

そこで彼女は小さく溜め息をついた。

唯川恵
1955(昭和30)年生まれ。作家。1984年「海色の午後」でコバルト・ノベル大賞を受賞しデビュー。『肩ごしの恋人』で直木賞、『愛に似たもの』で柴田錬三郎賞受賞。『ため息の時間』『100万回の言い訳』『とける、とろける』『逢魔』など、著書多数。

Book Bang編集部
2023年11月 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク