『家なき人のとなりで見る社会』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<書評>『家なき人のとなりで見る社会』小林美穂子 著
[レビュアー] 松村洋(音楽評論家)
◆心優しい怒り 随所に
著者は、定職も住まいも失った人たちの支援に日々奔走している。心身ともに疲れる活動だが、コロナ禍は生活困窮者を直撃し、支援者たちの疲弊は限界に達した。それでも、支援の現場を伝える著者の筆致はユーモアたっぷりだ。
生活保護申請書の受理を渋る福祉事務所。困窮者バッシング。性暴力。「この社会を、生存をかけたイス取りゲームにしてはいけない」という訴えが心に響く。
故国に帰れない事情がある外国人の窮乏も深刻だ。入管施設からの仮放免者は就労を認められず、生活保護や健康保険も使えず、難民認定率は極端に低い。生きる権利は、だれにもあるのに。
弱者に冷酷な社会に、著者は怒りまくっている。だが、私たちの多くは怒らない。怒っても不愉快になるだけで、どうせ不正はなくせないと思っている。そんな私たちの“怒る能力”は、ひどく退化してしまったのではないか? だとしたら、その先にあるのはどんな社会? 随所で心優しい怒りが炸裂(さくれつ)する本書は、読者にそう問いかけているようだ。
(岩波書店・2090円)
1968年生まれ。「つくろい東京ファンド」スタッフ。
◆もう一冊
『コロナ禍の東京を駆ける』稲葉剛、小林美穂子、和田靜香編(岩波書店)