日本統治時代の実像を追う

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日本を愛した植民地 : 南洋パラオの真実

『日本を愛した植民地 : 南洋パラオの真実』

著者
荒井, 利子
出版社
新潮社
ISBN
9784106106354
価格
858円(税込)

書籍情報:openBD

日本統治時代の実像を追う

[レビュアー] 山村杳樹(ライター)

 大正三年(一九一四)、日英同盟を結んでいた日本は連合国の一員として第一次世界大戦に参戦し、当時ドイツ領だったミクロネシアに海軍を派遣した。現地の責任者となったのが海軍中佐・松岡静雄。民俗学者・柳田國男の弟だった松岡は退役後、南洋諸島の民族誌や言語研究に携わり南洋研究の第一人者となった。日本とミクロネシアの交易は明治二十年代から始まっており、経済学者の田口卯吉も南洋貿易に乗り出していた。軍政を経て大正八年(一九一九)、ミクロネシアは日本の委任統治領となる。植民地とは違い、武器及び酒類の供給などが禁止されたが日本は南洋庁を設置、島々に支庁を置き同化政策を推し進めた。昭和十二年(一九三七)になると南洋庁の職員は千二百人を超え、台湾、朝鮮と同規模にまで拡大した。統治の末端に置かれたのが巡査で、彼らが税金の徴収、衛生管理、情報流布などの役割を担った。

 本書は、従来語られることの少なかった南洋委任統治領の実態を、パラオを中心に現地での取材を交えて具体的に描いている。日本統治時代になって以降の日本からの移民は、沖縄からのカツオ漁漁民などを中心に急増、終戦時には推定で十万人にまで達していたという。移民たちはサトウキビ、椰子、パイナップルなどの農園を経営し、これに伴い缶詰工場やアルミニウム工場などが建設され、町役場、学校などの整備も進んだ。学校では日本国内と同じ教科書が使われ、正月には教育勅語が読み上げられた。が、太平洋戦争で島々は戦場となり、産業インフラや農園は壊滅。日本移民が去った後、南洋諸島はアメリカの信託統治領となった。ペリリュー、サイパン、テニアン……、日本人にとっては玉砕の陰惨な記憶が覆う南洋の島々。本書はそこで繰り広げられた日本移民と現地人との交流や、統治がもたらした恩恵などの存在を教えてくれる。更にはアメリカが施した信託統治の負の面も。

新潮社 新潮45
2015年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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