談志の孫弟子が綴る落語の現在のありよう

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現在落語論

『現在落語論』

著者
立川 吉笑 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784620323459
発売日
2015/12/19
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

談志の孫弟子が綴る落語の現在のありよう

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 談志が『現代落語論』を書いた50年後、孫弟子による『現在落語論』が出た。現代落語論は当時の落語少年のバイブルと呼ばれ、私もその影響を強く受けてこの道を志したが、現在落語論もまた広く若者の支持を得るだろう。

 談志はそれを29歳で著したが、著者もまた31歳と年齢が近く、しかし談志は真打であったが著者は二つ目で、そしてまだ入門6年なのである。年上だがキャリアは浅い。著者はそこをどう補い、埋めたのか。それは著者がいきなりの落語家志望ではなかった点にあろう。

 京都出身の彼は最初、面白いこと、広義で言う「お笑い」を目指した。そして試行錯誤の末、落語を漫才やコントなどと同じく、「『笑い』を表現する手法と捉え」た。さらに落語が「不条理な空間やファンタジーの世界を描くことに優れている」と見定め、師匠に談笑を選ぶのだ。

 著者は前座から二つ目を1年半で通過している。異例なことで、それを支えたのは師匠の談笑だ。二つ目になり、著者が「擬古典(ぎこてん)」なる落語を始めた時、客のみならず、楽屋も瞠目した。そして快進撃なのである。

 本書には落語初心者はもちろん、見巧者や同業者が唸る視点があり、示唆にあふれている。談志は現代落語論を「落語が『能』と同じ道をたどりそうなのは、たしかである」と結んだが、著者は終章において、落語の持つ伝統性は強固だとしつつも、こう言っている。「落語が『漫才』と同じ道をたどりそうなのは、たしかである」と。

 かつて漫才も徒弟制であったが、それは吉本が設立した養成所NSC、その1期生がダウンタウンであったことによって崩れた。著者は落語界のリスクをそう表現したのだ。

 書かれていないことを少し。本書は暮に出版されたが、すでに増刷となっている。そして著者には弟子が来た。二つ目は弟子が取れないので、友達になったそうである。

新潮社 週刊新潮
2016年1月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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