『バタフライ』
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渕書店 BOOKSTORE FUCHI「世の中は善意で動いていると信じたい。」【書店員レビュー】
[レビュアー] 渕書店 BOOKSTORE FUCHI(書店員)
小五の頃から義父に体を弄ばられ続ける女子中学生、いじめからゲーム・昼夜逆転・引きこもりの男子中学生、従業員1人の零細工務店の経営者、退職後妻に先立たれ一人ひっそりと暮らすモラルに厳格な元教師、社会から転落しネットカフェ難民になってしまった若者等々・・・それぞれの独白が時間に沿って区切られ作品は進むのだが、深刻な状況を抱えているという点は重なるものの一見共通項のない一人一人。読みどころは読者それぞれだとは思うが、作者のそれぞれの人物への作者の憑依ぶりがすごいと思った。モノローグのどれもがリアルでこの町のどこかに登場人物が生活している気にさせる。物語は時間に沿って進み、1日の中で全てが始まり全てが終わる、厳然たる関係性を持たないまま・・・。しかし、なぜか、繋がる。そのことに無理がないところが作品の魅力の大きな一つ。それぞれのディテールはくっきりとしてるのに作品全体を見ると焦点が定まらない‥‥そんな不思議な思い。作品に善意が込められている点も好きだな。