明文堂書店石川松任店「一筋縄ではいかない魅力を持った傑作」【書店員レビュー】

レビュー

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アメリカ最後の実験

『アメリカ最後の実験』

著者
宮内 悠介 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103398110
発売日
2016/01/29
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

明文堂書店石川松任店「一筋縄ではいかない魅力を持った傑作」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

《「だから音楽ってやつは嫌い。どこまでも亡霊みたいについてきて、心に影を落としてくる」》。
難関で知られるジャズの名門校〈グレッグ音楽院〉に合格したという報せを最後に消息が分からなくなった父を追い、〈グレッグ音楽院〉を受験した脩は、アメリカでの父を知る先住民の女性から〈パンドラ〉と呼ばれる謎の楽器を渡される。そして二次試験の当日、試験会場で殺人事件が起こる。The First Experiment of America(アメリカ最初の実験)。ホワイトボードの中央にそう記されて・・・・・・。
ここに純粋無垢に音楽を愛している者はいない。しかしどんなに音楽に苦しみ、音楽を憎みながらも、音楽から離れられずにいる。そのことが落ち着いた抒情性の強い文章から異様な迫力を持って伝わってくる。そして憎しみや苦しみを経たからこその希望(音楽だけでなく、人生に対する希望も含まれている)が、強く描き出されているのも特徴的だ。
SF界の新鋭が本作で選んだ題材は音楽ミステリだが、特定のジャンルで括る必要はないのかもしれない。行方不明の父と不可解な殺人事件を巡る謎、そして危険で魅惑的な音の世界を描き出すだけでなく、多くの登場人物たちの人生観に踏み込み、演奏で浮かび上がる景色を幻想的に描く。哲学小説や幻想小説の雰囲気もある。色々なジャンルの成分が不協和音になることなく混ざり合っているようにも見える。一筋縄ではいかない魅力を持った傑作だ。
音楽にも、音楽小説にも詳しくない人間ですが、「面白い音楽ミステリが読みたいぞ」という方には、奥泉光『シューマンの指』をお薦めします。

トーハン e-hon
2016年4月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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