『哲学者クロサキの 哲学超入門』
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なぜ哲学は敬遠されるか――うわさ話のレシピにしてみる
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
哲学は、反射的に敬遠される分野だ。「カントの理論について話します」なんて言うと、さーっと人が散ると思う。でも、学問のさまざまな分野のなかには、世の人々が身近に感じるものもある。たとえばチンパンジーのアイの学習能力や、最新のがん治療や、海外での村上春樹の評価などは、人々の関心を充分にあつめているといえる。
この差はどこから来るか。わたしは、その分野に関する「うわさ話」ができるかどうかだと思う。
黒崎政男『哲学者クロサキの哲学超入門』は、NHKのラジオ番組の一コーナーが書籍化されたもの。これは、うわさ話を哲学レシピで調理する試みだ。ラジオは孤独な状況にいる人々に「親しみ」を提供するメディアだから、話題は日常的なものがいい。
この方法なら、世間で注目されているものごとを話題にしながら、哲学の考え方が示せる。仏像の価値は仏像自体にあるのか、それとも仏像を見る人の中にあるのかという問題や、四〇〇〇年を超える書物の歴史のニューフェイスである電子テキストの性質など、具体的な話題がたくさん。哲学はみんなが知っている対象をどんな角度から見るものなのかが、じわっとわかってくるしくみだ。
目の前にある大問題に取り組むときは、その問題を遠くから眺められるだけの距離をとってみることも大事なのかもしれない。哲学はその「距離のとり方」や「遠くからの眺め方」を教えてくれる。