『MANA』
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人気&異色AV女優は偏見の厚い壁を壊せるか
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
ボクはできるだけAVの人とは仕事しないようにしている。理由は簡単で、かなりの売れっ子でも「実は事務所に騙されました。歌手にするとスカウトされて……」「でも、いまはこの仕事が好きになりました!」と告白しがちな、その現実を受け止め切れないためである。しかし、最近は自分の意志でAVの世界に入るタイプも増えてきた。その代表的な例が紗倉まなだ。
彼女がAVの仕事をすることは母親も応援してくれていて……といっても、そんな単純すぎる話なわけもなくて、彼女は母親に「AVやると結婚できないよ」と言われていて、幼い頃から両親が不仲で、父親の浮気が原因で離婚するのを見てきた彼女は「大丈夫」「最初から永遠なんてないってわかってる」と返答。この本、裸が一切出てこない、可愛い写真だらけのスタイルブックなんだが、インタビューではダークサイド丸出しなのが興味深いのであった。
「親が離婚する前は、純粋系のラブストーリー……セカチューとかああいうのすごい好きで、泣けたし楽しかったし。離婚してからは見ても何も思わなくなっちゃって。どうせ美化してハッピーエンドですよね」
「ないない、こんなんないから。そういう純粋系の映画がどんどん嫌いになってっちゃって、園子温さんのグロテスクな作品とか、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』みたいな100%報われない系を好んで観ます」
その頃からあからさまに病んだ感じの絵を描くようになり、本棚にはフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』や夢野久作が並び、このビジュアルながら「コンプレックスだけで生きてきた」「整形したい」と公言する。そんな彼女が「『AV出演=人生崩壊』というイメージを払拭できたら。偏見という厚い鉄製の壁を壊す作業を、今はアイスピックくらいの小さい工具でほじくっているような気持ちです」と言うと、さすがに説得力が桁違いなのであった。