<東北の本棚>花にちなむ大人の絵本
[レビュアー] 河北新報
四季折々の花は幸福感を盛り上げる一方、つらい気持ちを和らげてくれる。脚本家の著者が実体験に基づき、花にちなんだ短い物語を36編収めた。
雑誌「花時間」に3年近く連載した随想を再構成。「大人のための絵本」と銘打ち、春夏秋冬に応じて4章仕立てにした。全編にカラフルで生命力があふれる花の絵を添えた。フランスや日本で活躍するイラストレーターが担当した。
春の章では「花を抱く男たち」が印象深い。かつて著者は付き合っていた男性から「約束のバラだよ」と言われ、両腕にいっぱいのチューリップを渡された。バラとチューリップを区別できない男性に笑い転げたが、実は好意が増したのだった。「(照れくさそうな)男たちとチューリップはどこか似ている」と結ぶ。
表題作はOL生活を送っていた20代後半の思い出話。9月の誕生日を一緒に過ごしてくれる人が見つからず、むなしい気持ちを抱えた著者が同僚の女性からスペイン料理店に誘われ、楽しい一夜を過ごす。店には毒々しい色のダリアが飾られていた。「その日からダリアが好きになった」と著者。花を通じ、親友になった彼女への謝意を表す。
著者は1948年秋田市生まれ。会社勤務後、87年脚本家デビュー。脚本に「ひらり」「毛利元就」など。
潮出版社03(3230)0741=1512円