『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』爆笑必至の科学エッセイ

レビュー

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爆笑必至の科学エッセイ いったい彼らは何者か?

[レビュアー] 成毛眞(書評サイト〈HONZ〉代表)

 この本を不用意に通勤電車の中で読んではいけない。爆笑必至のサイエンスエッセイなのだ。なんとか笑いを噛み殺しながら読み進めても、どこかで我慢の限界を突破して大笑いしてしまうこと請け合いだ。しかも、本のタイトルには「鳥類学者」という、お笑いとはほど遠い言葉が入っているのだから、まわりの人からは奇人だと思われるであろう。

 著者は現役バリバリの鳥類研究者。森林総合研究所の主任研究員だ。鳥の生態などを研究するため、小笠原諸島を拠点としてフィールドワークを重ねている。本書でも東京から1300㌔ほど南にある絶海の孤島、南硫黄島での凄絶な調査の様子などを垣間見ることができる。

 この4月に噴火再開が確認された西之島にも過去何度も訪れている。上陸できなかった時期も無人機での調査だ。後日、航空写真を調べてみるとカツオドリらしきものが写っていたという。撮影されたのが12月25日だったので、著者はすかさず「もちろん日付的にはサンタの可能性もあるが、それはそれで大発見だ」と、突拍子もない。

 この読者を楽しませる工夫は冒頭からフルスピードで展開する。鳥類学者とは何者なのかを説明しているなかで、「おそらく、一般に名前が知られている鳥類学者は、ジェームズ・ボンドぐらいであろう。英国秘密情報部勤務に同姓同名がいるが、彼の名は実在の鳥類学者から命名されたのだ。隠密であるスパイに知名度で負けているというのは、実に由々しき事態である。スパイの名前が有名ということも、英国秘密情報部としては由々しき事態である」と能天気なのだ。

 読者は鳥類とその祖先である恐竜にまつわる知識や、野外研究者の生身の姿を体感しつつも、あまりのハイスピードの笑いに翻弄されまくることになるだろう。

 この本を読んだ子供は鳥類学者を目指すかもしれない。しかし彼らは日本に200人しかいないのだそうだ。

新潮社 週刊新潮
2017年5月18日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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