【聞きたい。】小山実稚恵さん 『点と魂と スイートスポットを探して』

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【聞きたい。】小山実稚恵さん 『点と魂と スイートスポットを探して』

[レビュアー] 産経新聞社


小山実稚恵さん

 ■「最高の結果出す」極意に迫る

 ピアニストとして30年以上のキャリアを持ち、なお「ピアノが大好き。より質の高い音色を出したい」との熱い想いから、異色の初書籍は生まれた。想いが募り音楽誌で一流のアスリートや各界の達人と、仕事で最高の結果を引き出す「スイートスポット」をテーマに対談。本書では、うち12人の極意を紹介している。

 スイートスポットはテニスのラケット、ゴルフのクラブなどの「最適打球点」のことだが、ここでは「何かの芯をあざやかにとらえる」コツの意味も込めた。

 その一つが「脱力」。プロ野球監督の工藤公康さんは「車にたとえると、燃費を良くするために、脱力できる技術を磨かなければいけない」。棋士、羽生善治さんは「いい加減に力が抜けた『良い緊張』は身が引き締まる。『悪い緊張』は体がこわばる」と説く。

 もう一つ、「伝えたい、結果を出したいという強い想い、魂が必要」と小山さん。女優、大竹しのぶさんはコンサートで「今、歌いたい歌を歌う」、芝居でも「台詞(せりふ)でなく気持ちを覚える。気持ち、感情から自然に出る声なら、いくら泣いても嗄(か)れない」という。

 小山さんも「体は脱力しながら、必要なところで想いを集中して上手に力を伝えられるように。(演奏)曲のこの音のために、そこまで脱力して持ってゆく。そこが芯なんです」。

 「皆さん、されていることが大好きで、自分の技術を信じ、明日はもっとよくなると思っている。私もそう生きたい」と対談相手に敬意を表し、「仕事でも趣味でも、好きなことで真剣に目指している人には共感してもらえると思う」と読者のビジネス、人生への生かし方にも思いをはせる。

 一方、番外編で105歳の誕生日に対談した医師で「脱力の達人」、日野原重明さんは「経験は尊い」とポツリ。極めるには「やはり日野原先生のおっしゃる経験、でしょうか。この人生でできるかどうか…」。

 スイートスポット探しの旅はなお、続きそうだ。(KADOKAWA・1500円+税)

 三保谷浩輝

  ◇

【プロフィル】小山実稚恵

 こやま・みちえ 仙台市生まれ。平成28年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。今年、12年間・24回リサイタルシリーズが最終年。

産経新聞
2017年6月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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