『霊長類 消えゆく森の番人』
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目のあたりにしたサルたちの現実
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
ゴリラやチンパンジーなどの霊長類が絶滅の危機に瀕していることは知られているが、「この種が絶滅した」というニュースに接することはないので、保護活動が功を奏しているのかと勘違いしてしまう。しかし事態は深刻だ。生きた個体が数十年間確認されていないとか、個体数が20頭前後だとか。そんな種が、絶滅認定の順番待ちをしているような状態なのだ。
井田徹治『霊長類 消えゆく森の番人』は、ジャーナリストが絶滅危惧種の現状を伝えるレポート。保護区や調査隊の人々を追い、サルたちの現実を目の当たりにした。霊長類にとっての脅威はあまりにも多い。売るための密猟、食べるための狩猟、エボラ出血熱などヒトからの感染症、山火事……。なかでも「住む森をなくす」ことによってサルを激減させる大きな脅威は、世界中に輸出できるパームオイル(袋菓子やカップ麺に使われている安い植物油)を生産するためのプランテーションと、IT機器に使う希少元素を採るための鉱物採掘だ。
野生動物の保護活動は、「動物がかわいそう」という善意だけでは成功しない。絶滅危惧種は貧しい国や地域に多く、そこでの保護活動は、森林を破壊する産業によって得られる資金にも頼らざるを得ない。難しいバランスである。
霊長類は、なにも考えず自然に生きているだけで森林の「手入れ」をしているという。この本は、そんなサルたちのリアルな暮らしを想像する助けになった。