『カンパニー』
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困難の中、自らの価値を見いだす再生ドラマ
[レビュアー] 中江有里(女優・作家)
努力、情熱、仲間というと、学生時代のクラブ活動を思わせる。この三つがあれば無敵だと信じられた時代を過ぎて社会に出ると、これらだけではどうにもならない現実に直面する。それでも努力(レッスン)、情熱(パッション)、仲間(カンパニー)をもって人生を突破しようとする、大人ならではの底力を感じた。
老舗製薬会社に勤める四十七歳の青柳は、会社の改革路線から取り残され、バレエ団へ出向させられる。担当選手に電撃引退されてやはりバレエ団に来た、トレーナーの由衣とともに、世界的プリンシパル・高野悠の公演「白鳥の湖」を成功させなければ、二人に会社での居場所はない。しかし高野もまた引き際を考えるほど、満身創痍の状態だった。
青柳は妻子に去られ、何の知識もないバレエ団で力を発揮できるとも思えず雑用に勤しんでいたが、そんな彼に気力を取り戻させたのがバレエだった。実力があるのに、本番に弱い講師の美波の踊りは、青柳の心を動かす。
弱ったり傷ついたりすると、通常よりも芸術が心に沁みるように思う。本書の場合、「黒髪の貴公子」「世界の恋人」と呼ばれるほど魅惑的な高野も、コンビニのアルバイトで生計を立てながら踊り続ける美波も芸術家として人の心を慰めたり、時に鼓舞したりするという意味では同じだ。その周囲にいる青柳や由衣は、芸術家を支えることに生きがいとやりがいを見いだしていく。
しかし会社ではそううまくいかない。たとえば青柳は絞り出した自分のアイデアがいつのまにか上司のものになり、由衣にはやる気があっても、高野は心を許さない。高野とて踊れなくなったら自身の存在の意味がなくなる不安を抱えている。
それぞれに年齢、キャリアを重ねてきたからこその悩みが澱のように溜まっていく。ひとたび混ぜてしまったら、取り返しがつかなくなるかもしれない。そうして無難に安全な道を選んだはずが行き詰まる。それを打開するために必要なのが努力、情熱、そして仲間=カンパニーなのだ。
今の自分から新しい自分へ変わろうとする、そんな過渡期を描いている。自分の価値とは何なのか。自分の居場所や限界を自らに問いかける。現実に迫ってくる公演を成功させようと準備を進めながら――。
作品内のあの場面やこの場面を文字から想像していたら、なんと宝塚歌劇団で舞台化が決まったそうだ。どんな風に再現されるのかを、今から妄想している。