『命を救えなかった』
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<東北の本棚>鵜住居の悲劇、教訓問う
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災で、1次避難場所(津波避難場所)に指定されていない釜石市鵜住居(うのすまい)地区防災センターに多くの住民が逃げ込み、津波の犠牲になった。市と遺族団体の共同調査は196人が逃げ込み、うち162人が犠牲になったと推計する。
本書は妊娠中の妻を失った美容師の男性の視点でセンターの悲劇を追い、避難方法や教訓の伝え方などを問う。センターは鉄筋コンクリート2階。公民館機能や消防出張所などを備え、中長期の避難生活を送る拠点避難所の位置付けで2010年開所。14年解体された。
フリーライターの著者は12年、美容師の男性と出会う。センターに隣接する幼稚園で臨時教諭として働いていた妻の遺体はセンター2階で見つかった。幼稚園から1次避難場所までの距離は約500メートル。男性は「逃げれない距離ではない。なんでそこに行ったのか」と答えを求め続ける。
センターを巡り、震災遺構として保存するか、復興を進めるために解体するか、遺族間で意見は分かれた。市は13年「地元各団体からの要望を踏まえ」と解体方針を決定。だが男性は「遺族同士が話し合い、納得したのか」と、その過程に疑問を持つ。
センターでは避難訓練が行われていた。そのため震災で娘と孫を避難させて亡くした男性もいた。筆者は「住民が拠点避難所と津波避難場所の区別を十分理解していたとは考えにくい」と推察し、「センターは解体されたが、被災体験や教訓をいかに伝えていくかが課題」と指摘する。
著者は1969年栃木県生まれ。著書に「絆って言うな!」「実録・闇サイト事件簿」など。
第三書館03(3208)6668=1620円。