<東北の本棚>蝦夷の大義を掲げ決戦

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水壁

『水壁』

著者
高橋克彦 [著]
出版社
PHP研究所
ISBN
9784569832814
発売日
2017/03/11
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<東北の本棚>蝦夷の大義を掲げ決戦

[レビュアー] 河北新報

 朝廷の植民地政策に苦しむ蝦夷、これに飢饉(ききん)が加わっておびただしい数の餓死者を出した。窮する民を前に古代東北の英雄・阿弖流為(あてるい)の血を引く若者が決起、「反中央政権」の力を結集して戦いを挑むという物語の展開だ。
 時は9世紀後半。朝廷軍と戦って勝利するが、最期は非業の死を遂げる蝦夷の族長・阿弖流為の4代目がいたという設定だ。名は「天日子(そらひこ)」。北奥羽で豪族の庇護(ひご)を受けていたが、やがて将の器を持つ青年に成長する。
 重税、連年の飢饉で陸奥、出羽で1万人以上の餓死者を出す。蝦夷の民が逃散すると、朝廷側は土地を収用し、支配下の公民に分け与えた。植民地支配から逃れようとする者たち、あるいは元山賊、都で権力闘争に敗れた軍略家らが次々と天日子の下に集まる。「民を救え」、青年はついに蝦夷の大義を掲げて立ち上がる。
 中央政権の出先が陸奥国の胆沢城であり、多賀城だ。しかしここを狙えば朝廷との全面戦争になる。狙いを日本海側の出羽国、秋田城に定めた。作戦の本拠は二ツ井(秋田県北部)に置き、八郎潟から南下して秋田城へと進軍する。秋田城を攻め、蝦夷の潜在能力を示し「和議」に持ち込んで朝廷側の苛政を改めさせようという作戦だ。蝦夷を蔑視する朝廷の公家たちに、果たしてこの戦略は通用するだろうか。秋田城の外郭の扉に火が放たれた…。
 タイトルの「水壁」は秋田県北部を流れる米代川を指す。米代川以北は朝廷の勢力が及ばない蝦夷の国。和議を成功させ、理想郷をつくろう。そこに自分たちの手による自治、自由と平等、平和な国を実現させようという彼らの願いが込められているかのようである。
 著者は1947年生まれ、盛岡市在住の直木賞作家。「風の陣」「火怨」「炎立つ」などに続き、権力を相手に熱き闘いを繰り広げる男たちの夢を描いた歴史長編だ。
 PHP研究所03(3520)9630=1836円。

河北新報
2017年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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