『紅城奇譚』
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九州を舞台に描かれる戦国時代ミステリ
[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)
表紙には紅蓮の炎に包まれる城。鳥飼否宇『紅城奇譚』は、戦国時代の九州で展開するミステリ小説である。序では本書の中心人物となる鷹生龍政の前歴が記される。椎葉氏に仕え、戦で敵対する近隣大名の首級をあげる活躍をみせた龍政は、主君を突然襲って領地を奪い、燃えるような紅色の城の主となった。彼は椎葉氏の一族郎党を皆殺しにしたが、美しい容姿の鶴姫だけは生かし、自らの妻にした。ここから物語は始まる。
龍政との間に二人の子を産んだ鶴姫の首なし死体が発見され、懐妊中の側室まで墜死する。続いて龍政の弟の毒殺、それた矢による父の死などの凶事が起きる。もともと残虐で傍若無人な龍政は、事件をめぐりさしたる根拠もなく疑った相手を手にかけたりする。理不尽に身内を殺されても、部下は権力者の龍政にさからえず、とりあえず引き下がるほかない。人が人らしく扱われない、戦国時代特有の論理が幅をきかせている。
事件の謎は若く顔立ちの整った腹心・弓削月之丞が解いていくが、親族を相次いで失った龍政はやがて精神的に追いつめられていく。事件の背景には当然、龍政への恨みがあるわけだが、恨みを晴らすために犯人が選ぶ手段も人を人と思わぬものである。暴君である龍政だけでなく、虐げられてきた人も時代特有の論理に染まっているのだ。また、戦国の小説らしく最終章では居城での戦となるが、とんでもないスペクタクルが待っている。
現代とは違う異様な心理、考えかただけでなく、絵になる場面が多いことも本作の面白さだ。読後にふと、歌舞伎の様式美で舞台化したところを見てみたいと思った。