• 新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一)
  • 巷説百物語
  • BABEL 復讐の贈与者

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晴らせぬ恨み晴らす 復讐代行業者の活躍

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 悪を討つ悪、というダークヒーローの魅力はいつの世も尽きない。例えば池波正太郎殺しの四人』(講談社文庫)などに登場する藤枝梅安。普段は町人から慕われる鍼医者でありながら、裏の顔は金次第で人でなしを消す“仕掛人”という、善悪が混沌とした人物造型がいまも多くの読者に愛されている。

 池波の生んだ裏稼業もののスタイルは、現代の娯楽小説でも脈々と受け継がれている。『巷説百物語』(角川文庫)に始まる京極夏彦の〈巷説百物語〉シリーズはその代表格だろう。御行の又市ら小悪党たちが困難な問題を金で請け負い「仕掛け」を行う、謎解き要素も兼ねた連作小説集だ。

 こうした闇の仕事人たちの活躍がもっと読みたい、という方にお勧めなのが日野草BABEL 復讐の贈与者』である。

 本書の仕事人は金で晴らせぬ恨みを晴らす、復讐代行業者と呼ばれる者たちだ。各編には義波(ぎば)という青年が登場し、物語中で重要な役割を演じる。

『BABEL』の特徴は、読者をいきなりクライマックスの最中に放り投げる点にある。第一話「バベル」では、冒頭で高層ビルの展望室を男が占拠し、多数決によるデス・ゲームを開始する。この唐突な出だしでショックを与えた後、作者は更に二転三転の逆転劇を用意するのだ。従来の裏稼業ものとは違い、登場人物たちがどう仕掛けるのか、ではなく、そもそも何が仕掛けられているのか、に着目させ驚かせるのである。

 収録作中の白眉は第三話「グラスタンク」だろう。綱渡りのような技が冴えた一編なのだが、驚きだけではなく切ない感情も込み上げてくる作品である。人間が複雑で矛盾を孕んだ生き物であるということを、この短編は美しく残酷な光景をもって訴えかけるのだ。

 なお、本書は〈GIVER〉シリーズ第二作に当たる作品だが、前作には無いある趣向が組み込まれている。この趣向がより熾烈な騙し合いを生み、よりハードな展開をもたらした。日野草という作家、仕掛けて仕損じなし。

新潮社 週刊新潮
2017年8月31日秋風月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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