『ドゥルシネーアの休日』
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アクションシーンの緊迫感が尋常ではない
[レビュアー] 図書新聞
著者の第四作は、第二作『遠海事件』と深い関わりを持つミステリ。捜査関係者しか知り得ない、過去の事件と共通の痕跡を残す模倣殺人が連続する。担当刑事の雪見は、その追跡過程で、「月島凪」の存在に出くわす。月島は、『遠海事件』において、前代未聞の殺人鬼・佐藤誠に、八六件もの事件を自白させた名探偵である。しかし、解説の大矢博子も言うとおり、月島は本作においても名前しか登場しない。常に不在であり続けさせるあたりに、詠坂の企みが光る。四部構成の第三部「泥犬」のアクションシーンの緊迫感は尋常ではなく、ミステリ本業作家には書き得ない高みに達している。無論ミステリ部分は水準以上である。この恐るべき作家を黙殺するのはそろそろやめにしようではないか。(16・3・20刊、三六四頁・本体八〇〇円・光文社文庫)