『白霧学舎 探偵小説倶楽部』
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濃密な季節
[レビュアー] 岡田秀文(作家)
人間関係の濃淡は、たいていの場合、時間と相関関係にある。共に過ごした時間が長ければ深くなる。そして時の隔たりとともに薄まっていく。
子供のころ親の里帰りで一緒に楽しく遊んだ従兄弟などと法事で十数年ぶりに顔を合わせても、昔の親密さは戻ってこない。肩車をしてくれた叔父さんは遺影の中にいる。時の移ろいが無情に感じられる。
でも過去にたった数年間、同じ空間で時を過ごしただけなのに、学生時代の友人とは、何十年かぶりの再会でも、なぜか一瞬にして時空の隔たりが埋まってしまう。
今、どんな仕事をしているのか、どんな暮らしをしているのか、家族はいるのか、情報はまったくなくても、手探りの質問などせず、おれ、おまえで、話が通じる。
互いの外見の激変ぶりに戸惑っても、それは一瞬のこと。すぐに違和感はなくなる。三十数年前、机を並べていた時とまったく同じ感覚で言葉を交わすことができるのだ。それだけ共有した時間が濃密だったということだろう。
『白霧学舎 探偵小説倶楽部』は、とある全寮制の旧制中学校の生徒たちが殺人事件の捜査をする物語だ。時は昭和二十年、太平洋戦争末期。戦時体制、食糧難など、現在の日本とはまったく異なる状況下で、主人公たちは運命に翻弄されながらも、事件解決に力を合わせて挑む。
本作をジャンルで括れば、謎解きミステリーとなるだろうが、作者としては、謎解きと同じ比重で、ある特殊な状況下での友情も描いたつもり。そんな点を感じ取ってもらえればうれしいです。