『ゲームライフ』
- 著者
- マイケル・W・クルーン [著]/武藤陽生 [訳]
- 出版社
- みすず書房
- ジャンル
- 自然科学/自然科学総記
- ISBN
- 9784622086482
- 発売日
- 2017/10/19
- 価格
- 2,860円(税込)
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人生の多くはパソコン用ゲームが教えてくれた……
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
『ゲームライフ』というタイトルを見たら、多くの人はスマホゲーム、ファミコンやプレステで遊ぶ家庭用ゲームを思い浮かべるかもしれないけれど、この本の著者が扱っているのはパソコン用ゲームだ。
七歳の時に出合った、ロボットに適切な命令を下して世界の秩序を保ち外敵の侵略から守るコマンド入力式のゲーム「サスペンデッド」。〈ぼく〉は8ビットホームコンピュータにフロッピーディスクを挿入し、少年にとっての今・此処とはちがう世界の中へと入っていく。そこでは無限に死ねることに驚き、他者が作ったメソッドを発見して、それに従うことで何かを達成できる知的快感を知った〈ぼく〉は、以降、ゲームにのめり込んでいくのだ。
一九八六年、十一歳の時に夢中になったのはダンジョンズ&ドラゴンズ系のゲーム「バーズテイル2」。対人対面式のD&Dがやりたいのに、一緒にパーティを組んで遊んでくれる友達が見つけられず悶々としていた〈ぼく〉は、それを独りで出来るこのゲームに夢中になる。そして、〈勝利〉〈敗北〉〈フラストレーション〉という感情を知り、すべての攻撃やダメージが数字で明記される世界に爽快感を覚えていく。
などなど、計七つのパソコン用ゲームを取り上げた本書は、著者がゲームをプレイすることでどのように成長し、何を学んできたのかを綴るノンフィクションだ。方法論的行為、数字、地図、戦争、ゲームオーバーの無情、経済、孤独。ゲームに没頭する〈ぼく〉の背景にはレーガン政権下の八○年代アメリカ社会の諸相があり、日常レベルでは両親の離婚や無惨なスクールカーストやいじめがある。ゲームの記憶と現実世界のそれをよりあわせていく、臨場感溢れる語り口がいい。「ゲーム脳」なるトンデモ論をはじめ、この手のゲームを敵視する言説を信じている人にこそ読んでほしい。ゲームはこんなにも豊かでユニークな内面世界を生む契機にもなり得るのだ。