[本の森 SF・ファンタジー]『半分世界』石川宗生/『アリスマ王の愛した魔物』小川一水

レビュー

9
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

半分世界

『半分世界』

著者
石川宗生 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488018252
発売日
2018/01/21
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

アリスマ王の愛した魔物

『アリスマ王の愛した魔物』

著者
小川 一水 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784150313098
発売日
2017/12/19
価格
756円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 SF・ファンタジー]『半分世界』石川宗生/『アリスマ王の愛した魔物』小川一水

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 SF界から、またジャンルを越えて活躍しそうな新人作家があらわれた。『半分世界』(東京創元社)の石川宗生だ。『半分世界』は四編を収めた作品集。

 まず第七回創元SF短編賞を受賞した「吉田同名」は、三十代の会社員・吉田大輔が帰宅途中に一九三二九人になってしまう。同一人物が増殖する話はほかにもあるけれど、人数が桁外れで、自分相手にやたらと本の話をしているところが楽しい。

 大量発生の原因と解決手段を究明するため、〈対策本部〉は番号をふられ施設に収容された大輔の集団を観察する。敬語のない独自の言語を開発したり、手に入れた物資を公平に分けるため囲碁や柔道といった非暴力の競争で戦ったり。大輔たちが築き上げていくコミュニティの細部が魅力的だ。二度目の春に一人しかいない妻との離婚が決まる。その日の夜、大輔氏が一人、また一人と部屋から出て行って起こる出来事はしみじみと切ない。自分という存在が同時多発することによって世界はどう変わるのか。あるいは変わらないのか。さまざまな思考を喚起してくれる。

 表題作の「半分世界」はドールハウスのように家の半分が消失しても安穏たる日常を送り続ける藤原家の人々と、彼らを観察する〈フジワラー〉の狂騒を描く。見る者と見られる者の関係がスリリング。全住民が白と黒のチームに分かれて三百年もゲームを続ける町で敵同士の男女が恋に落ちる「白黒ダービー小史」、来ないバスを待ち続ける人々の営みが幻想的な「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」。いずれも甲乙つけがたい面白さ。

 小川一水『アリスマ王の愛した魔物』(ハヤカワ文庫JA)も素晴らしくチャーミングな短編集だ。オートバイが人を乗せて走る喜びを語る「ろーどそうるず」、宇宙港管制室のオペレーターが小さな巻貝みたいなロボット(?)に懐かれる「星のみなとのオペレーター」など五編を収録。

 表題作は数学が好きな王子アリスマが主人公。王子といってもディメという小国の、しかも六兄弟の末っ子で、容姿も醜悪なアリスマはみんなに放っておかれた。身の回りのあらゆるものを数えていくうちに、彼は不思議な従者と巡り会う。素性も性別もわからないがとても美しい従者は〈殿下を敬愛しております。算術の栄えは国の基(もとい)。お力を持っていただいて、ディメに算術を振るわせられませ〉と言う。やがて国の実権を握ったアリスマは〈算廠(さんしょう)〉と呼ばれる計算の殿堂――人力のスーパーコンピューターのようなもの――を築き、算術の力でどんどん領土を拡大していく。特にかつて自分を侮辱した異国の王女に対する復讐方法はえげつないのに痛快。美貌の従者の奇妙な口癖が感染してしまいそうな、めくるめく算術版『千夜一夜物語』だ。

新潮社 小説新潮
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加