[本の森 歴史・時代]『コルトM1847羽衣』月村了衛

レビュー

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コルトM1847羽衣

『コルトM1847羽衣』

著者
月村 了衛 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163907765
発売日
2018/01/12
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 歴史・時代]『コルトM1847羽衣』月村了衛

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

 江戸時代の裏社会に生きた者たちの生き様が炙りだす表社会の闇。

 稼業人でも渡世人でもない玄人稼業として生きる者たちがいた。仁義も情けもなく、何があっても仕事をやり遂げる彼らを描いた月村了衛『コルトM1847羽衣』(文藝春秋)は、近年の時代小説で中心的な「情」「愛」「涙」「ほっこり」等の感情を期待して読むとやけどをするほど尖った、刺激的な物語だった。

 闇社会を題材に、犯罪者側の視点を取り入れながら人間の憎悪や悪意や暴力などを描く暗黒小説は、現代小説の一つのジャンルとして成立し多くのファンを得ている。しかし、時代小説としては珍しい。

 本書は、第一七回大藪春彦賞を受賞した『コルトM1851残月』(文春文庫)に続く暗黒時代小説シリーズ第二弾である。リボルバー式のコルトを使い、裏仕事で存在感を誇示しつつ抜け荷稼業を仕切る番頭・残月を主人公に、幕末が迫った江戸の裏の盛衰と人間の業の深さを描いた『コルトM1851残月』は、時代小説と暗黒小説を見事に融合させた作品だった。タイトルからもわかるように、もっとも重要な要素が、銃(コルトM1851)だ。あの時代に古い仕組みの銃ではなく、連発可能な銃を持たせることで生まれる優越感と驕りが、これまでの殺戮シーンとは違う緊張感をかもし出すことに繋がっていた。

 さて、シリーズ第二弾となる『コルトM1847羽衣』。前作との繋がりは何もないように見えるが、もっとも大切な要素として銃を中心に置いていることが唯一の繋がりだろう。

 主人公は、羽衣の異名を持つ女渡世・お炎で、佐渡の金山を舞台とした陰謀に迫っていく。六連発銃・コルトM1847を背にお炎は、思い慕う青峰信三郎を探しに佐渡に渡る。佐渡の金山には、不気味なオドロ様を信仰する邪教が広がっていて、青峰信三郎を追い金山の奥底に向かうお炎はオドロ教の一党と戦うことに。さらに、オドロ教を隠れ蓑とした、徳川の世をゆるがす陰謀に巻き込まれてゆく。人間の憎悪や悪意や暴力が詰まった物語だったが、『コルトM1851残月』よりも読後感がよかったのは、玄人稼業の「信」が描けていたからだろう。佐渡の金の行方とお炎のその後は、ぜひ読んで確かめていただきたい。

 本書を読み終えたとき、無性に相場英雄『御用船帰還せず』(幻冬舎文庫)が読みたくなった。奪う者と守る者。舞台を一にしてもそれぞれの視点でこうも違うものか。併せてお読みいただきたい。

新潮社 小説新潮
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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