『やくそくの「大地踏」』
書籍情報:openBD
<東北の本棚>黒川能に打ち込む少年
[レビュアー] 河北新報
鶴岡市・春日神社の最大の祭り「王祇(おうぎ)祭」で披露される国の重要無形民俗文化財「黒川能」を題材に、同市出身の絵本作家が子どもを主人公にした作品を描いた。伝統芸能に一生懸命に取り組む少年の姿が胸を打つ。
黒川能は猿楽能の流れをくみながら、いずれの流派にも属さない独自の発展を遂げた農民芸能。遅くとも室町末期には存在していたとされる。
物語の主人公は、運動が苦手でのんびりしている小学1年生のこう太。ある日、毎年2月1、2日に行われる「王祇祭」で子どもが舞う「大地踏」を、こう太が舞うように「たよさま」から伝えられる。
こう太は突然のことに戸惑うが、1年前に亡くなった父親がこう太に「大地踏」を舞わせるよう願い出ていたのだった。
こう太は不安で仕方がなく、気後れしたが、亡き父親や家族の思いをくみ、意を決して大役の稽古に励む。失敗を重ねながらも師匠の愛情に包まれ、くじけることなく精進し、家族や友達が見守る中で晴れ舞台に臨む。
由緒ある伝統芸能と向き合い、少しずつ成長していくこう太の姿が、豊かな色彩感と巧みな構図の作画、愛らしいキャラクター造形などで表現され、物語に引き込まれる。
リーブル03(3958)1206=1296円。