『しろくろいろいろかくれんぼ』
- 著者
- いしかわ こうじ [著]/いしかわ こうじ [イラスト]
- 出版社
- ポプラ社
- ジャンル
- 芸術・生活/諸芸・娯楽
- ISBN
- 9784591158050
- 発売日
- 2018/03/08
- 価格
- 1,078円(税込)
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『しろくろいろいろかくれんぼ』刊行記念 絵本作家いしかわこうじさんインタビュー
[文] 加治佐志津
累計210万部を超える人気作「これなあに? かたぬきえほん」シリーズの13作目となる新作が今月、刊行されました。タイトルは『しろくろいろいろかくれんぼ』。これを記念して今回は、鮮やかな色彩と美しいデザインの絵本でおなじみの絵本作家いしかわこうじさんにご登場いただきます。子ども時代に夢中になったことや、「かたぬきえほん」シリーズ誕生秘話、新作の見どころなど、たっぷりと伺いました。
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●色や形へのこだわりは子ども時代から
―― 小さい頃はどんなお子さんでしたか。
小さい頃の僕は、お絵描きや折り紙、工作などが大好きな子どもでした。特に色への関心は人一倍高かったように思います。子どもの頃に見たもので特に印象に残っているのは、7歳のときに開催された大阪万博。行っていないんですが、パンフレットを買ってもらって、パビリオンの写真を毎日のように眺めていました。
一番好きだったのが「みどり館」という、サッカーボールを半分に切ったような形の建物です。一方から見ると緑と青の微妙な色で組みあがった結晶体のように見えるんですが、別の角度からだとオレンジ色に見えるんですね。造形的にも面白いし、グラデーションも美しくて、心惹かれたことを覚えています。
―― 色と形へのこだわり、というのは、今のいしかわさんの作品に通じる部分が大いにありますね。
今、僕が絵本でやっていることは、幼稚園や小学校の頃にやっていたことと、ものすごく近いような気がしています。こんなものを作ったら面白いだろうなっていう感覚が、意外にも子どもの頃と今とでほとんど変わらないというか。
―― 図らずして原点回帰していた、というような感覚でしょうか。
そうですね。美大で絵やデザインの勉強をしたり、ピカソやマチスの作品と出会ったりして、いろんな知識が自分の中に入ってきましたし、イラストレーターとして仕事に打ち込んだり、「ペーパーわんこ」という立体の犬の工作に集中したりしていた時期もあったんですが、子どもの誕生がきっかけとなって、最終的に絵本の世界に飛び込んだんですね。そこで浮かび上がってきたのが、子どもの頃の自分だったんです。
もちろん、それまでに積み上げてきた知識やエッセンスも入っているんですが、今はそのすべてを集約した上で、子どもの頃と近いノリで絵本を作っている感じですね。楽しく仕事をさせてもらっているので、ありがたく感じています。
●シリーズ累計210万部突破!「かたぬきえほん」シリーズ誕生秘話
―― 2006年に出版された『どうぶついろいろかくれんぼ』と『のりものいろいろかくれんぼ』が、絵本作家としてのデビュー作ですよね。型抜きのしかけが特徴のシリーズですが、アイデアはどのように生まれたのでしょうか。
本をめくるたび、鮮やかな色の中から様々な形が現れる瞬間を体験できたら面白いんじゃないかな、というのがアイデアの原点ですね。
最初はもっとシンプルなアート絵本みたいなものを、動物をテーマに1冊だけ作れればと思っていたんです。でもポプラ社に持ってきたら、乗り物も一緒に作ってほしいと言われたんですね。乗り物なんて全然考えていなかったんですが、作ってみたら意外といいものができたんですよ。2冊できたなら、3冊目もありかなって思うじゃないですか。
―― 次々と続編が出版されて、今や累計210万部という人気シリーズになりました。フランスや中国、韓国など、海外でも翻訳出版されていますね。
めくるとパッと動物の形が現れる爽快感は、言語の違いなど関係なく味わえますからね。基本的には自分が面白いと感じる絵本を作っているんですが、その面白さが国境を越えて伝わっているというのは、とてもうれしいことです。
―― このシリーズを作る上で心がけているのはどんなことですか。
美しいものにしたい、という気持ちはすごくありますね。子どもでも大人でも、見ただけで「わっ!」と思うような、インパクトのある美しさを目指しています。それとは別に、ある種の品格みたいなものを持たせたいという思いもあって。色にしても形にしても、上品な豊かさが感じられるものになるように心がけています。
僕の場合、絵だけではなく、装丁まですべて自分で手掛けているので、1冊1冊ひとつの作品として、持ったときの佇まいまでこだわって作っているんですね。大きさや手触り、光沢感、色の配置や見え方……そういうのをすべて含めて、心地いいものを作り出せたらいいなと思っています。持っているだけでうれしくなるような、愛着が持てる絵本になるように、職人芸を注ぎ込んでいるようなところもあります。
―― 1冊1冊が技の結晶なんですね。
そうなんです。絵柄はシンプルですが、実はこの形に持っていくまでに、ものすごく時間をかけていて……このカーブじゃないといけないとか、ひとつひとつこだわりがあるんですよ。型抜きにしても、日本の最高峰の技術があってこそ実現していますしね。
―― 表紙のタイトル文字をよく見ると、一文字一文字、色が違うことがわかります。それでいてすごくまとまった感じがあって、いしかわさんならではの色彩美を感じます。
こういうのは、理屈で考えちゃうとできないので、自然に色を置いていくんですよ。形にしても同じで、どんな線を描くかについては、どこにも正解がないじゃないですか。だから自分の感覚を信じるしかないんですよね。もちろん一発で決めるのではなくて微調整もするし、もっといい色や線があるかもってことで探ってみた上で、一番いいものを採用するんですが、あまり力を入れず、自然にすーっとできたときの方が、案外いいものができていたりしますね。
●「かたぬきえほん」シリーズ、新作は『しろくろいろいろかくれんぼ』
―― 今月、「かたぬきえほん」シリーズの新作『しろくろいろいろかくれんぼ』が出版されました。こちらはどんな風にして生まれたのでしょうか。
やっぱり色に対する関心から来ているんでしょうね。白と黒という極限の2色を使って一冊作ってみたら面白いかなと思って。でも背景には色を使っているので、本全体が白黒というわけではなくて、むしろカラフルなんですよ。
表紙の黒は、黒塗りの漆器のように、つややかで深い黒色にこだわりました。自分でも、美しい仕上がりに満足しています。
―― 白黒のものとして登場する絵も、どれもかわいいですね。
おたまじゃくしとか、かわいいですよね。型抜きのしかけで立体感が生まれるので、水の中に泳いでいる感じがうまく出せました。おにぎりやソフトクリームも、おいしそうに描けたので気に入っています。全体的にアウトドアな感じのものが集まったので、これから春に向けてちょうどいいかなと。
―― 春のお出かけのお供にもいいですね。お出かけのお供といえば、『どうぶつ くみたてパズル』もとてもユニークです。
『どうぶついろいろかくれんぼ』の世界を立体パズルにした絵本です。「ペーパーわんこ」でやっていたことを、ウレタン素材でパズル仕立ての本にすれば、簡単に作ったり戻したりできるな、と思いついて作りました。4つのパーツが厚紙のページに埋め込まれていて、取り出して組み立てると動物になります。片付けるときもパズルをはめていく感じで楽しいんですよ。
―― 軽いので、旅行などに持っていくにもいいですね。
旅先で組み立てて、一緒に写真を撮ったりするのもおすすめです。いぬ、ねこ、ライオン、ぞう、ゴリラの5種類の動物が作れるんですが、ゆくゆくはあと1、2冊出して、動物園ができるようにしたいですね。
―― 今はデジタル絵本などもありますが、「かたぬきえほん」にしても『どうぶつ くみたてパズル』にしても、アナログだからこその楽しさがありますね。
そうですね。「かたぬきえほん」も、映像として撮ったものを画面で見るとなると、実物を手に取って見たときと比べて、体験としてはだいぶ劣化してしまいますからね。やっぱり目の前で実際にめくりながら、手触りなども含めて楽しむのが醍醐味だと思います。
●子育ての喜びの中から生まれた「まねっこえほん」シリーズ
―― 『ふねくんのたび』のようなストーリーのある絵本も出されていますね。
『ふねくんのたび』は、『のりものいろいろかくれんぼ』の表紙の船を主役にしたお話です。もともと好きだった海や港、船を題材に、のんびりした絵本にしたいなと思って作りました。
―― 夕焼けや朝焼けのシーンが美しくて、とても印象的です。
それまでに培ってきた絵のエッセンスを存分に投入して、シンプルなんだけれど味わい深い絵本を目指しました。
南仏や地中海、香港、横浜、長崎など、それまでに見たいろんな海の要素を盛り込んで描いています。この本の仕上げの頃、熱海にも取材に行きました。港の真ん前のホテルに泊まって、朝日を眺めたり、最上階の露天風呂で素っ裸で港を見たりしてね。写真や想像だけじゃなくて、実際に船が行き来したりカモメが飛んだりしている様子を見たのは、絵本を作る上ですごくいい影響がありました。
過去に作った絵本を見ていると、制作当時のことを思い出しますね。あの頃、子どもは何歳ぐらいだったなとか。
―― 『あかちゃん にこにこ』をはじめとする「まねっこえほん」シリーズは、赤ちゃんだった頃のお子さんとの時間が凝縮された絵本だそうですね。
そうですね。娘の誕生がきっかけになって生まれた絵本です。抱っこしたり、オムツを替えたり、お風呂に入れたり、一緒に遊んだり……赤ちゃんと毎日、積極的にかかわっていると、いろんな発見があったんですね。そんな中で、特に印象に残った表情や動作をテーマにしました。
見開きの左ページに赤ちゃん、右ページに動物が登場して、笑ったり泣いたり、手を叩いたりと、同じ表情や動作を繰り返します。絵本を見ている赤ちゃんも、つられて同じことをまねっこするんですよ。
制作途中で娘にも繰り返し読み聞かせて、反応を見ていたんですが、最初から反応するわけではないんですね。でもあるときから急にまねをし始めたりするので、それがとても興味深くて。ちょうど手を叩いたり、立ち上がったり、歩いたりといったことができるようになる時期だったので、成長を記録するようなつもりで描きました。
読者の方からも、「前に読んだときにできなかったことが、次読んだときにはできるようになっていて、子どもの成長を実感しました」といったうれしい感想をいただいています。赤ちゃんの成長の瞬間を一緒に喜びながら、絵本を楽しんでもらえたらうれしいですね。
●子どもたちに美しい色と形を見せてあげたい
―― いしかわさんは、他の作家さんの絵本も読まれますか。
もちろん読みますよ。長新太さんとか好きですけど、自分じゃ描けないなと思ったりね。でもやっぱり、美しいものを作っている作家が好きかもしれないですね。バイロン・バートンやエリック・カール、レオ・レオニなど、お話ではなくて造形芸術から絵本の世界に入っていった作家の作品は、自分と近い肌合いを感じて、いいなぁと思います。
―― 小さい頃から美しい色や形の世界に親しむことができるというのは、絵本の魅力のひとつでもありますね。
そうですね。僕自身、子どもたちにこそ上質なものを届けたいという気持ちで絵本作りに取り組んでいます。世の中には素敵なもの、美しいものがたくさんあるということを、子どもの頃から感じてほしいし、絵本を通じて豊かな体験を味わってもらえたらいいなと思っています。
―― 今後はどんな絵本を作っていきたいですか。
「かたぬきえほん」だけでもアイデアはまだ10冊分以上あるので、今後も続けていきたいですね。他にも作りたい絵本のアイデアはたくさんあるんですが、制作が追いつかなくて(苦笑) 基本はやはり、面白くて楽しくて美しい作品を生み出していきたいですね。ブックデザインも全部自分でやっているので、今は年に2冊くらいのペースでしか新しい絵本を出せないんですが、一冊一冊、大切なわが子のような気持ちで作っているので、その絵本がたくさんの読者の方々に届いて、楽しく読んでいただけるというのは、とてもうれしいことです。
―― いしかわこうじさん、どうもありがとうございました!
■プロフィール
いしかわこうじ
1963年、千葉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。1987年、第9回講談社童画グランプリで大賞。2004年、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展で入選。『どうぶついろいろかくれんぼ』をはじめとする「これなあに? かたぬきえほん」シリーズ(ポプラ社)は累計210万部を超える人気作で、フランス、台湾、韓国など海外でも翻訳出版されている。その他、『ふねくんのたび』『つみきくん』『まねっこえほん』シリーズ(ポプラ社)、『たまごのえほん』(童心社)、『おめんです』(偕成社)など作品多数。