<東北の本棚>医師の合理的判断導く

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身体知性

『身体知性』

著者
佐藤友亮 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784022630643
発売日
2017/10/10
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>医師の合理的判断導く

[レビュアー] 河北新報

 西洋医学は血液検査、画像検査で身体を分析する。西洋医学の身体観の特徴は「分析の追求」だと著者は言う。だが、身体には分析の及ばないことが存在する。「分からないこと」に遭遇した時、また救命救急外来など短時間で対処しなくてはならない時に、医師はどうするか。
 こうしたケースでは身体感覚的な判断に頼らざるを得ない。合理的判断を導くための身体の役割のことを、著者は「身体知性」と名付けた。非分析的判断をする時に重要なのは、「身体経由」の感情コントロールだと指摘する。医師であり武道家(合気道家)でもある著者ならではの、刺激に満ちた身体論を展開していく。
 本書は初めに西洋医学が身体の徹底観察と正確な理解を追い求めることになった歴史的背景を紹介。入り口として身体と言葉の関係についても考察する。例えば、妻ががんになった時、夫が医師に何を聞いても「まだ分かりません」と言ったとする。余命や副作用など今後の経過が分からないということだが、夫はがん自体が未確定だと受け止める。身体を言語化する時、医師と一般人との間には大きな隔たりがある。
 一方、医師は科学的な分析に基づく整合性の隙間を、自分の身体という不安定なもので埋めていく。医師の疲れや焦り、患者に対する嫌悪感などが判断をゆがめる可能性にも触れる。感情の変化が「認識エラー」をもたらし、それが誤診へとつながることを明らかにする。
 身体知性を論じる上で、西洋医学のように身体をパーツの集合と見るのではなく、総合的な身体の調和を目的とする東洋医学の身体観や、武道に代表される東洋的なものの見方が重要であるとも主張。そして、身体をどう扱えば心身の健康を保ち、豊かな社会生活を送れるかという根源的な問いへの回答を試みる。
 著者は1971年盛岡市生まれ、岩手医大卒、大阪大大学院修了。神戸松蔭女子学院大准教授。
 朝日新聞出版03(5540)7793=1620円。

河北新報
2018年4月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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