『1冊のノートが「あなたの言葉」を育てる』
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「伝え方」に悩んでいる人は、「日気ノート」をつけて自分の「言葉の木」を育てよう
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『1冊のノートが「あなたの言葉」を育てる』(川上徹也著、朝日新聞出版)の著者は、「伝え方」について考えるにあたり、1本の「木」をイメージしてほしいと記しています。
テクニックや型を使ってアウトプットするような「発言」や「文章」は、「言葉の木」の「枝葉」にあたる部分。しかし「枝葉だけの木」では「花」を咲かせ「実」をつけることはできません。でも、しっかりとした「幹」があれば、同じように見える「枝葉」であっても「言葉」は重く感じるというのです。
とはいえ「枝葉」がなければ、周囲からその価値をわかってもらえず、成果を生み出しにくいともいえます。つまり、どちらも大切だということ。
本書は、「言葉の木」という比喩を使って、テクニックや型の前段階にある「内面の言葉を作っていく方法」について、初めて詳しく語った本です。 コピーライターや作家として、また講演やセミナーなどでも「言葉」を常にアウトプットしている私が、普段からどのようなインプットをして、それをどう活用しているかについて、明かしています。(「はじめに」より)
では、どうすればしっかりとした「言葉の木」を育てていくことができるのでしょうか?
当たり前ですが、まず「種」を植えることが何より重要です。 どんな「木」に育てたいかという意思を込めた「種」です。 「種」を植えたら、今度は、しっかり「根」を張っていく必要があります。 「根」から「水」や「養分」を吸収していくことで、あなたの「言葉の木」は成長していくのです。 次に重要なのは、「幹」を育てることです。 しっかりした「幹」があれば、ちょっとやそっとの風雨では折れません。 ここまできちんと「言葉の木」を育ててから、枝を伸ばし、葉をつけていくことが理想的な姿です。 そうして伸びた「枝葉」は、似たような表現であっても、ただテクニックや型だけで書いたものとは違う、あなただけの「自分の言葉」になっているはずです。 (「はじめに」より)
こうした考え方を軸とした本書のなかから、「根」をどう広げていくかについて書かれた第1章、「『日気ノート』で、根を広げる」に注目してみましょう。
日々の気づきを書き記す「日気ノート」
「単語」「慣用句」など、ただ集まってくるものを吸い上げるだけでは、目的を達成するために「養分」にはならないと著者は主張します。自らの意思で「根」をいろいろな方向に伸ばし広げていくことが必要だというのです。
そこで重要な意味を持つのがノートの存在。まずは日々の気づきをノートに記していこうということで、著者はそのノートを「日気(にっき)ノート」と呼んでいます。もちろん「日気」は著者による造語ですが、これは「日記」とは違うもの。
一般的な「日記」には日々あった出来事を記すわけですが、対して、日々気づいたことを書き記すのが「日気」。「言葉」に関することはもちろん、直接は「言葉」に関係しないことでもOK。いずれにしても話せるネタが増えるわけで、それが自分の「言葉の木」を豊かにするというのです。
そんな日気ノートのサイズは、小さめのほうがいいそうです。理由は、持ち運びやすく、かばんから取り出してすぐに書きやすいから。サイズ的には小さすぎると書くスペースが狭くなり、読み返しにくくもなるため、著者はB6サイズの方眼ノートを使っているのだとか。それがちょうどいいサイズだと感じているというのです。
そのノートの右ページに日々、「気づいたこと」や「エピソード」などを書き込んでいくわけですが、ポイントは、この時点では左ページを空けておくこと。いうまでもなく、のちのちノートを見返して考えたことを書き込めるように、十分なスペースを確保しておくためです。なお、書き込んだときの年月日を記しておくと、いつのことがわかるので便利。
たとえば著者の日気ノートの2016年6月8日には、次のような「気づき」が書かれているそうです。
世界は「気」でできている
本気 元気 天気 人気 狂気
病気 色気 やる気 勇気 気力
気を入れる 気をぬく 気がぬけたビール(仕事)
気がある 気がない 気が合う 気がきく 気がつく
気が散る 気が変わる
<気が小さい 気が短い>
<気が思い 気が大きい 気が長い 気が多い>
気が強い 気が弱い 気が早い 気がはる
気が気でない 気がしれない
気づかい 気配り(目配り 心配り) 気をまわす
気に病む 気をもむ 気を許す
空気コピー ↔︎ 本気コピー 買気コピー やる気コピー (43ページより)
つまりは、「世の中に『気』という漢字が使われている熟語や慣用句がものすごく多い」ということについての「気づき」。単語だけしか記されていませんから、他人が見たらなんのことかわからないかもしれません。しかし実際に書いた著者自身は、この1ページを読み返すだけで、当時、次のようなことに気づいたのだとすぐに思い出せるというのです。
・ 「気」という漢字は、物質として存在するものではないのに、なぜこんなにもいろいろな熟語や慣用句に使われているのだろう?
・ 天の気で「天気」、元の気で「元気」、人の気で「人気」、病める気で「病気」、狂った気で「狂気」、勇ましい気で「勇気」など、「気」という漢字を使った熟語だけでも意味を考えるとおもしろい。
・ 「気」が入った慣用句もおもしろい。「気が小さい」と「気は短い」は、どちらも「気がミニサイズ」のはずなのに正反対の性格の人っぽい(でも共通する部分もある)。同じ「気が大きなサイズ系」でも「気が重い」になると急に心情的なニュアンスだし、「気が多い」は恋愛系になる。「気を配る」「気をつかう」などもよく考えたら不思議な慣用句だ。
・ 「気を入れる」と「気をぬく」では大きな違い。「気がぬけたビール」がマズイのは多くの人が実感するから、「気がぬけた仕事」なんてフレーズもおもしろいかも。
・ 「空気コピー」(私の造語で、「あってもなくてもいいような常套句でできたキャッチコピー」のこと)の対立概念として「本気コピー」「買気コピー」「やる気コピー」という「造語」が考えられる。
(43ページより)
日気ノートは人に見せることを目的としたものではないので、上記のように気づいたことを細かく書いておく必要はなし。読み返したときに、自分がその「気づき」を思い出せればいいというわけです。
さて、もうひとつの事例です。著者の日気ノートの2016年6月28日には、次のような「気づき」が書かれているそうです。
ジョーカーは使いよう
ババぬき=悪役 大富豪=最強 あなたの中のジョーカーは何か? 会社の中にもジョーカーがいる。 (45ページより)
これを読むと、次のような気づきがあったことがわかるといいます。
・ トランプの「ジョーカー」は、「ババぬき」ではそれを最後に持っていた人が負け。できるだけ手元に置いておきたくない「最悪の札」。
・ 一方同じトランプ遊びでも「大富豪(大貧民)」では、あらゆるカードの代わりになる「最強の札」。
・ 同じものでもルールが違うと「最悪」にもなるし、「最強」にもなる。
・ それぞれの人の性格や技能にも、場所によって正反対になってしまうものがあるはず。
・ 企業の中にも、部署や使い方によって、「最強」になる人材も「最悪」になる人材もいる。(46ページより)
このように、ちょっとした「気づき」を書き記しておくと、そこから発想が広がっていくわけです。なお、「気づき」は新たな発見でなくとも、ふとした「疑問」でもいいそうです。その疑問の答えを自分で考えているうちに、なにかの「気づき」を得ることもあるから。(39ページより)
他にも、幹を育てるための「内幹ノート」、成果を生み出すための「出言ノート」と、それぞれの目的に応じたノートの使い方が紹介されています。それらを自分のものにすれば、「伝え方」で悩むこともなくなるかもしれません。
Photo: 印南敦史