『1ミリの後悔もない、はずがない』
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【女による女のためのR-18文学賞出身作家対談】窪美澄×一木けい つながれてきたバトン
R・18文学賞と性
─お二人が小説を応募する賞として「女による女のためのR・18文学賞」を選ばれたのにはどのような理由があったのでしょうか?
窪 私がぼんやりと小説を書きたいと思ったのは三十五歳ごろで、そのときに書いた作品のタイトルに「マゼンタ」という言葉が入っていたんです。で、「マゼンタ」をタイトルに使った小説はないかと検索したら、R・18文学賞第一回の大賞を受賞された日向蓬さんの「マゼンタ100」が見つかりました。そこで初めてR・18文学賞の存在を知り、翌年に応募しました。そしたらそれが一次選考を通過して……。一次選考を通ったということは、小説として最低限の文章は書けているのかな、と思って、少し安心できました。でも、その後しばらく忙しくなり、そのあとちゃんと本腰を入れて書きはじめたのは四十二歳くらいのときです。それでも、仕事も子育てもしていたので、執筆のためのまとまった時間が確保できず、長編が対象の新人賞に応募できるような作品は書けませんでした。R・18文学賞は短編の賞なので、枚数的に挑戦しやすいというところに一番の魅力を感じていました。一木さんはどうですか?
一木 私はタイに住んでいるので、インターネットで応募できるというところが便利だなと思っていました。何年にもわたって応募していたのですが、二次選考に残ると編集者さんのコメントがいただけるところも、書くためのモチベーションにつながっていました。
窪 一木さんは何度も最終選考に残っていたんですよね?
一木 そうですね、四回残していただきました。
窪 それは本当にすごいことですよね。R・18文学賞は第十回までは「性」をテーマにした小説であること、というルールがありましたが、一木さんが応募していらした頃はこのテーマはありましたか?
一木 はじめて最終に残していただいたのが第十二回で、そのときにはもうありませんでした。
窪 私は「性」というテーマが義務付けられていたころの受賞でしたので、受賞作は特に官能の描写が多いんです。デビューしたばかりのころは評判が気になって、ついエゴサーチもしてしまい、「四十過ぎの欲求不満のライターが」という読者の声を見つけて勝手に傷ついたりしていました。女性が性のことを書くと二〇一〇年でもまだこんなに叩かれるのか、瀬戸内寂聴さんが初めてそういうものを書いた頃から何も変わっていない、と驚きました。
─性描写を書くことへの抵抗や、あるいは書きたいという積極的な思いはありますか?
一木 私は、抵抗は全くありません。小説にその要素が必要だと思ったら書いています。特に積極的に性描写を入れようとは思っていませんが、小説を書いていたらそういうシーンが必要になることも当然あります。
窪 私の場合はそもそも「性」というテーマがある賞でデビューをしていたので、最初から「性」が書ける作家として扱われていました。小説雑誌は年に一度くらい官能小説特集があるので、そこによく「一篇書いてください」という依頼をいただいていました。官能小説特集の中の一篇ですから、当然性描写があります。そこから話を膨らませて連作にしてみませんか、とご提案いただくことが多かったです。私の初期の作品が、性描写のあるシーンから始まるのはそういう理由に因るものが大きいです。特に性を書きたいとか、書くべきという気持ちがあるわけではなく、「性描写が書ける人」としてデビューした作家として、出版社からの依頼に応えていたという感じです。