【文庫双六】京都舞台に架空の協議 展開の妙と秀逸なオチ――北上次郎

レビュー

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京都舞台に架空の協議 展開の妙と秀逸なオチ

[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)

【前回の文庫双六】映画的表現とは何か 市川崑の秀作「炎上」――梯久美子
https://www.bookbang.jp/review/article/551780

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 金閣寺のある京都には祇園祭を始めとしてさまざまな伝統行事があるが、その祇園祭に負けない歴史を持つのがホルモーだ。なんと千年も続いている伝統的な対戦競技である。

 もちろんこれは、万城目学のデビュー作『鴨川ホルモー』に出てくる競技で、架空であることは言うまでもない。しかし本書を読むと、実在するのではないかという気になってくる。

 この本が書店に並んだのは2006年の春で、その帯に「第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞」とあった。その版元名も賞も知らず、さらにラノベの雰囲気を勝手に感じたので最初は手に取らず(例外はあっても結構苦手なのである)、しかし気になったので書店を一度出てから引き返したことを思い出す。

 あのとき、私を再度書店に引き戻したのは、本の持つ力である。こういうふうに、本に呼ばれることが時々ある。白河三兎のデビュー作『プールの底に眠る』もそういう一冊で、こちらも忘れがたいが、それはともかく、『鴨川ホルモー』は期待に違わずひたすら面白かった。

 乱暴に要約してしまえば、鬼や式神を使って大学生が戦争ごっこをする話である。体長20センチの式神(本作ではオニと表記)が棍棒を持って戦うのだが、その式神が見えるようになるには訓練が必要で、そのためサークル員には1年の修行が課される。戦うのはその翌年。つまり2年に一度の戦いで、今回が五百代目というから、京の都で千年続いている、ということになる。

 ようするにファンタジーだが、真に素晴らしいのは途中から物語がズレていくことだ。主人公の恋愛が彩りに終わらず、物語の構造を変えていくのである。さらに絶妙なのは秀逸なラストで、こういうオチをつけることで本書は「閉じない物語」になった。

 奇妙な設定の物語ではあるけれど、この2点を持つからこそ設定も活きていることを銘記したい。

新潮社 週刊新潮
2018年5月17日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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