【聞きたい。】片岡義男さん 『くわえ煙草とカレーライス』

インタビュー

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くわえ煙草とカレーライス

『くわえ煙草とカレーライス』

著者
片岡 義男 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309026947
発売日
2018/06/18
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】片岡義男さん 『くわえ煙草とカレーライス』

[文] 海老沢類(産経新聞社)


片岡義男さん

■楽しい偶然が生む大人の物語

 ほどよく肩の力が抜けた大人の男女が織りなす日常が7つの短編で変奏されている。どれもやわらかな日差しをたっぷり浴びたような心地良い読後感がある。

 「そう、明るい感じ。登場人物は外向的だし、男も女も上下関係はなく対等。書いていて楽しいですね」

 幼なじみとの20年ぶりの再会に始まる、楽しい偶然の連鎖。新聞社の女性記者の決意と、それを支える男…。日常の中の小さな奇跡を抑制された文章でつづった収録作を、おいしそうなカレーライスが彩る。「みんな好きでしょ。簡単に一皿で食べられるし。すごく普通の日常がそこにある」

 昭和40年代の東京を舞台にした表題作には、片岡さんの創作論を読むような面白さがある。コミックス作家に物語を提供している主人公の男性が、行きつけのバーで働いている女性と商店街でばったり出くわす。自然な流れで喫茶店で話し込み、夕食は一緒にカツカレー。この女性の所作を次の物語に活(い)かそうと頭をひねる主人公は、ふと思う。〈庶民の日常のなかを、さしたる起伏なしに流れていく時間。その時間のなかにこそ、物語がある〉。最終盤で女性が下す決断にも、何げない日常をまるごと肯定する力強さが宿る。

 「日常はつまらなくはない。単純な流れではないんですよ、時間って。かつての時間と今の時間-という2通りの時間が、男と男、男と女の偶然の『再会』によってつながる。そこにストーリーが生まれる」

 翻訳や評論、写真…と活動は幅広い。取材中、「これ、面白いですよ」と取り出したのは小さなメモ帳。街中で目に入る看板の文字などを順番に書きとめているという。最近、それらを「詩」として雑誌に発表した。「びっくりだよね。普段こんな言葉に囲まれて生きているのか、って。日常のほとんど全部が僕の文章に影響を与えているんです」(河出書房新社・1800円+税)

 海老沢類

   ◇

【プロフィル】片岡義男

 かたおか・よしお 昭和14年、東京生まれ。早稲田大在学中にコラムの執筆や翻訳を始める。昭和50年発表の「スローなブギにしてくれ」で野性時代新人文学賞。『この冬の私はあの蜜柑だ』など著書多数。

産経新聞
2018年8月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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