日本で5人? “カラス屋”の日常

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カラス屋、カラスを食べる

『カラス屋、カラスを食べる』

著者
松原 始 [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784344985117
発売日
2018/07/30
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

珍体験に溢れたカラス屋の日常

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 野外で鳥を見るというと、趣味の人だと思われる。でも、大ヒット作『カラスの教科書』以来、鳥を観察したり追いかけたりしている人のなかには学者もいるということを世に知らしめてきたのがこの人。松原始『カラス屋、カラスを食べる』は、フィールドワークに邁進してきた半生の体験を飾らずに伝える読み物だけれど、とにかく情けなくて苦労が多くて、しかしキラッキラに楽しそうなのである。うらやましい。

 著者は「カラス屋」(生物学界隈では、観察対象に「屋」をつけると自称にもなり、一種の敬称にもなる)として日本で五指に入ると豪語するが、全部で五人ぐらいしか存在しないからだそうだ。いつも野外で生態観察をしているのは二人ぐらい……ええー? 

 そんな珍しい日常を送っていれば、そりゃあ珍体験も増える。公園で実験をしている最中に、謎の宗教の人たちにカラスの群れを蹴散らされたり。夜の街でホテルを探し四方に気を配りながら歩いていたら、警察官と勘違いした夜のおねえさんたちがいっせいに姿を隠したり。カラスへのアプローチは無限だが、どのルートにもカラスと関係ない雑事がごっちゃりついてきて、カラスより先に人間観察の達人になれそうだ。

 カラス以外の動物も登場します。ウミガメと握手し、ヒルと闘いながらサルの群れを追う。環境アセスメントで猛禽類を探すアルバイトの欺瞞も、自虐の笑いとともに。どこまでも楽しく読めました。

新潮社 週刊新潮
2018年9月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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