『ネクスト・ギグ』
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“ロックとは何か”その問いが犯人を炙り出す、注目の新人の登場
[レビュアー] 杉江松恋(書評家)
ロックってなんだろう。
『ネクスト・ギグ』は、その問いから始まる音楽ミステリーだ。作者の鵜林(うばやし)伸也はこれが初の長編であり、新人らしい熱量の高さが味わえる。
〈赤い青〉は、天才・クスミトオルを中心とするロックバンドだ。クスミはギターを弾く以外は何もできない男だが、友人の成宮(なりみや)遼と共にラディッシュハウスというライブハウスを経営していた。そこで事件が起きる。〈赤い青〉のボーカリスト・シノハラヨースケが、舞台上で刺殺されてしまったのだ。
事件が起きたのはアンコールが始まろうとしていたときだった。舞台はいったん暗転したが、〈赤い青〉のメンバーやスタッフ以外の者がヨースケに近寄ればわかってしまう状況だった。犯人は、身内の誰かである可能性が高い。
ラディッシュハウスで働く児玉梨佳が視点人物になる。容疑者を絞っていく筋道の立て方や、梨佳が事件調査を始めるに至る心の動きなど、設定が自然なので流れるように話が進んでいくのが心地よい。
冒頭の問いは、被害者が死の直前に呟いたものだった。関係者に事件について聞く際はこの問いも一緒に発せられる。それによって各自のロック観が語られ、中核にあるものが浮かび上がってくる。商業文化としてのロックは全盛とは言いがたく、その窮状も詳(つまび)らかに描かれる。それの描写を外枠とすれば、ロックとは何かという問いは内を充填するものであり、両方向からこの豊かな音楽小説は仕上げられていくのである。
犯人当て小説としての充実度は言うまでもない。前述のとおり初めから容疑者は限定された状況であり、事態が進展し、新たな情報が判明するたびに緊張感は高まっていく。その知的興奮と、ロックという文化に関する好奇心とが融合し、他では体験できない読書時間を堪能させてくれるのである。奇を衒(てら)わない、よい小説だ。よい新人が世に出たものだ。