大掃除の時期にぴったり?「捨てる」を書く3冊

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九人の女性作家が描く人それぞれの「捨てる」

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 年末が近づき、そろそろ散らかったものを片づけなければならないな、という時期にぴったりの一冊が出た。九人の女性作家が「捨てる」をテーマに書いた競作短編集『捨てる』

 同じ題材でも料理の仕方に作家の特色があらわれていて楽しい。例えば近藤史恵の「幸せのお手本」は、何を捨てたかで魅せる一編だ。優しい祖母をお手本に幸せな結婚生活を送っている語り手が手放したものの正体に戦慄する。

 どうやって捨てるかに唸ったのが松村比呂美の「蜜腺」だ。夫を自殺で亡くしたばかりの主人公は、勤め先のスーパーで正社員を目指して働きながら、彼の育てていた食虫植物のウツボカズラの処分について考える。息子が自分の借金返済のために死んだのに、さらに遺産を奪おうとする姑のキャラクターが強烈。酷い目にあっても見捨てない主人公は、よほどお人好しなのかと思ったら……。結びの一文が淫靡だ。

 推理作家協会賞を受賞した永嶋恵美の「ババ抜き」は、三人の女性がトランプでジジ抜きをしつつ、秘密を暴露しあう。すべてのカードを早く捨てられた者が勝つゲームで遊んでいるはずが、話はどんどん不穏な方向へ。女たちの息詰まる心理戦が描かれる。捨てる行為には、人間の本性があらわれるのだろう。

 ネットを使った売買が定着した今は、不用品を処分しやすい時代かもしれない。原田ひ香『人生オークション』(講談社文庫)は、就職できなかった主人公と、離婚したばかりの叔母が、過去の荷物をネットオークションで売ると同時に心の荷物も整理していく小説。高い対価を払って手に入れた物を失う代わりに至る境地が爽快だ。

 年齢を重ねていくうちに、多くのものを所有するのがしんどくなる。しかし中崎タツヤ『もたない男』(新潮文庫)には衝撃を受けた。『じみへん』で知られる漫画家のエッセイ集だ。パソコンは持たず、ソファは捨てて、原稿は燃やすという極端なシンプル生活を送りながら、実は物欲が強いところに笑ってしまう。物と人間の関係は複雑だ。

新潮社 週刊新潮
2018年11月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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