人の手によって探し当てた“ほんとう”が持つ光〈ベストセラー街道をゆく!〉

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極夜行

『極夜行』

著者
角幡 唯介 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163907987
発売日
2018/02/09
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

人の手によって探し当てた“ほんとう”が持つ光

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 本来、真実を手にするためには相応のコストが必要なはずだが、いまや金も時間もかからない胡乱(うろん)なニュースが世界を席巻しているのはご存じのとおり。そんな世相に一石を投じるべく新設されたのが「Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞」だ。記念すべき第1回で大賞を受賞したのは角幡唯介(かくはたゆうすけ)『極夜行』。発表後、本書の週ごとの売れ行きは前月までの50倍近くまで跳ね上がり、現在6刷4万6000部と順調に版を重ねている。

 本書は太陽が沈んだ状態が続く「極夜」現象下の北極を探検した過程を綴ったもの。審査員のひとり、三省堂書店有楽町店副店長の内田剛氏は、「受賞の決め手はやはり作品力」と説明する。「構成に驚きがあるし、大自然の峻烈な描写と人間臭い部分が拮抗する表現に惹き込まれる。満場一致の大賞決定でした」。

 評価されたのは文章そのものの巧みさだけではない。ノンフィクションを売り出す場合、“なぜ今これを書くのか?”という理由を読者に示すことも肝要だと担当編集者は語る。

「角幡作品の最大の特徴は、例えば旅にGPSを持ち込まないことにも表れているように、情報過多の現代において敢えて情報を得るための手段をシャットアウトする点にあるんです」

 そうした手続きを経て初めて立ち上がる“未知の領域”の豊饒さは、ネット社会を生きる私たちが疎遠となって久しいものだろう。

「暗闇をひとりで旅する、そこで自分自身の心と向き合い、他の誰も経験したことがないであろう感動と直接対面する。それを読者がうまく追体験できるように表現できるのは、探検家である前に作家である角幡さんならではの力です」(同)

 ちなみに店頭で同賞のノミネート作品を並べて展開したところ、意外なタイトルが相乗効果で売れるといった反応もあったという。

「これまで日が当たりにくかったノンフィクションジャンルに、改めてライトを灯せた意義は大きいと思います」(内田氏)――

“ほんとう”が持つ光とは、けっきょくは人の手でないと掘り起こせないのだ。

新潮社 週刊新潮
2018年12月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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