子どものやる気を伸ばしたいなら、「楽しい」と感じる瞬間をたくさん用意しよう

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家でできる「自信が持てる子」の育て方

『家でできる「自信が持てる子」の育て方』

著者
沼田晶弘 [著]
出版社
あさ出版
ISBN
9784866671031
発売日
2018/11/10
価格
1,540円(税込)

子どものやる気を伸ばしたいなら、「楽しい」と感じる瞬間をたくさん用意しよう

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

家でできる「自信が持てる子」の育て方』(沼田晶弘著、あさ出版)の著者は、国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。児童の自主性や自立性を引き出す斬新でユニークな授業が、アクティブ・ラーニングの先駆けとして評価され、数多くのテレビや新聞、雑誌などに取り上げられているという人物です。

その教育の特徴は、子どもたちが楽しいと思えるまで、手を替え品を替えいくつもの提案や問いかけをすること。やる気を引き出すことができるまで、あの手、この手、あっちの手、そっちの手と、あらゆる手を尽くして子どもたちに仕かけていくというのです。

「これは楽しい!」 とやる気になってくれたからといって、安心してはいられません。 今度は、また違う手を使って、子どもたちのやる気が失われないように工夫します。ときには、他人の手でも、機械の手でも、猫の手でも、子どもたちを飽きさせないためなら、ありとあらゆる手を使います。

彼らが夢中になってからも、“その手”も“どの手”も“誰の手”でも利用して、その興味が長続きするようにチャレンジします。 「あの手、この手」くらいのレベルで、諦めてなどいられません。(「プロローグ」より)

しかし、自身がそうしているからこそ、多くのお父さん、お母さんは、すぐに諦めてしまっているように見えるのだそうです。「やれることはやった」と思いながら、実際には「あっちの手」や「そっちの手」まで使うことなく、諦めてしまっているのではないかということ。

そこで本書では、世の中のお父さん、お母さんたちにとっての「あっちの手」「そっちの手」ーーつまり「仕掛け」となるヒントをまとめているわけです。しかもすべて著者が実践してきたことばかりなので、効果は実証済みだとか。

きょうは第1章「“自分から勉強をする”ようになる『あの手』」を見てみることにしましょう。

勉強を「楽しみの時間」に変えてしまう

子どもに対して大人が「勉強しなさい」と言いたくなるのは、「勉強はとても大切」で、「必ず役に立つから、やっておいたほうがいい」ということを経験的に知っているから。

逆にいえば、子どもはまだそれに気づいていないから勉強したがらないわけです。

著者はそういうことを踏まえたうえで、担任として子どもたちと関わる際、常に「目的のない勉強は楽しくないもの」だという事実を前提に考えるのだそうです。理由は簡単で、「楽しい」ことであれば「やりなさい」と言われなくても自分からやりたがるものだから。

本来、学びとは楽しいものであるはず。ところが、勉強を「なんのためにしているのか」「いつ役に立つのか」、その意味をわかっていないからこそ、「勉強はつらいもの」になってしまうということ。

楽しくないと思っているのに、大人が「やりなさい」と口を酸っぱくして言っても、やる気になれるはずがないわけです。

「ゲレンデマジック」という言葉を、知っている方も多いはずです。 ゲレンデでは、不思議と異性が何割増しか魅力的に見えますよね。つまり、見た目にあまり自信がなくても、ゲレンデならモテることも不可能ではないわけです。

ボクが思うに、「勉強」を人にたとえるなら、性格もすごくいいし、知識は深くて頼りになり、話題も豊富で一緒にいて楽しいけれど、たぶん見た目はそれほど良くなく、あまりモテないのです。

ボクたちは日常で出会っても、「勉強さん」にはトキメキません。 そこで、出会いの場をゲレンデに変えてみます。 見た目の問題は、ゲレンデマジックでクリアされます。 内面はもともと文句なしですから、ボクたちは身も心も「勉強さん」の虜になってしまうかもしれません。

ゲレンデを降りてから少々見た目にがっかりしても、 「でも、他の誰よりも頼りになる」 「他の誰よりも一緒にいて楽しい」 と、すでに知っているから、「勉強さん」の魅力は損なわれないのです。(37ページより)

子どもたちがまだ勉強の大切さ、おもしろさに気づいていないのであれば、無理やり勉強させたところで、やる気になってくれるはずもありません。そこで、そんなときこそお父さん、お母さんが子どものために、「ゲレンデでの勉強さんとの出会い」を演出してあげることが大切なのだと著者は言います。

つまらないはずの勉強が、すごくおもしろくて興味深く、楽しいものに見えるような勉強のやり方、アプローチの方法を提案してあげるということ。学んでほしいこと、身につけてほしいことがあるのなら、「これをやったら、すごく楽しい」と子どもが実感できるように、いろいろアイデアをひねり出してみるべきだということ。

一度やってみて「本当に楽しい」と実感できると、子どもは「またやってみたい。もっと楽しみたい」とやる気になってくれるものだといいます。(32ページより)

食いつくのは“魅力的な提案”と“気になる情報提供”

子どもに対して、「これをやってみない?」というような提案をすることは、どんな家庭でもあるはず。しかし、その結果、「まぁ、やってもいいけど…」という程度の言葉を子どもから引き出しただけで満足してはいけないのだといいます。

「やりたい! やってみたい!」と子どもが自分から言い出すくらい、魅力的な提案をしたり、気になる情報を提供したりし続けることが大切だというのです。

「コレをやると、アレも簡単にできるようになるよ」 「あの有名人もやってるんだって!」 「つまらない? でも、やり方をこう変えてみたらおもしろくない?」

根気よく続けることで、そのうち、お子さんがどんなことに対して、 「おもしろそうだ。やってみたい」 と心を動かされるのか、少しずつわかってくる可能性もあります。(46ページより)

たとえば野球をテレビでしか見たことがない子に、「野球をやってみない?」と誘っても、なかなかその気にはなってくれないかもしれません。

でも、実際にプロ野球の試合に連れて行き、白熱のプレイを目の前で見せたり、あるいは野球をテーマにした漫画やアニメを見せたりすれば、野球に興味を持って「やってみたい」と自分から言い出す可能性は出てくるわけです。

もちろん、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあるはず。しかし、子どものやる気を引き出すにあたっては、一度や二度失敗したからといって諦めてしまわない根気強さが必要。

何度も何度も、ありとあらゆる手を尽くし、尽くしたあとにも「なにかないか」と知恵を絞って、子どもに声をかけ続けることが大切だということ。

それは著者も同じで、「こんな提案をしたら、みんながおもしろがってくれるのでは」と思いついたら、とにかく子どもたちに仕掛けてみて、彼らの反応を確かめるのだそうです。

そして、もしもつまらなそうにしていたら、「これはナシ。じゃあ次はどうする?」とすぐに頭を切り替え、他の新しい手を考え始めるというのです。逆に「なに?」と身を乗り出してきたら、「いいぞ! これは継続してやってみよう」と判断するのだそう。

しかし、継続しようと決めたことでも、同じことを続けていればやがて飽きてしまうもの。そこで、やる内容のレベルをもっと上げてみたり、新しいルールを取り入れたりと、変化させていく必要も。

いずれにしても、そうやってうまくやる気に火をつけることができれば、子どもたちは自分の力で、自分の意思で、前に進みはじめてくれるといいます。(40ページより)

「楽しい」と感じる瞬間をたくさん用意する

棋士の羽生善治さんは、子どもと将棋を指すとき、わざと負けるのだといいます。 勝てると当然、楽しい。その「楽しい」という思いが、子どもたちが将棋を続ける意欲につながる体そうです。(48ページより)

例を挙げて考えてみましょう。子どもに英語を学んでほしいと思うなら、まずどのような手段を考えるでしょうか? 一般的なのは、英会話教室に通わせることかもしれません。

もちろんそれでもいいのですが、それだけで終わってしまった場合、「英語って楽しいな」と感じる瞬間が訪れないかもしれないと著者は指摘しています。

それどころか、「英語は難しい」「わからないから、つまらない」と、苦手意識を抱いてしまう可能性すら否定できないというのです。では、どうすれば「楽しい」と思ってもらえるのでしょうか?

たとえば、少し大きな駅に行って、困っている外国人に声をかけてみてはいかがでしょうか。 今、日本にはたくさんの外国人が訪れています。英語圏の人でない可能性もありますが、それでも片言の英語なら話せるかもしれません。

駅で困っているのなら、目的地へ行く電車の切符を買いたいか、もしくは、駅についてお目当の場所に行こうとしているのかでしょう。

会話の内容が予想しやすいので、事前にどんな英会話が必要になるかを、しっかり予習しておけます。 困っているところを助けられたら、相手もとても喜んでくれるでしょう。(49ページより)

子どもにとってはハードルが高いことだという気もしますが、しかし、「自分の英語がネイティブの人に通じた」「話しかけたら喜んでもらえた」というような経験は、子どもの自身になるはず。そしてそれはきっと、「自分の英語が通じてうれしい」「英語で会話ができるのがうれしい」という思いにつながっていくといいます。

難しそうなこと、がんばらなくてはいけないことでも、「楽しい」という思いがあれば続けて行く意欲を持てるもの。だからこそ、子どもがやる気を持続できるように、「楽しい」と感じることのできる瞬間をたくさん用意してほしいと著者は記しています。(48ページより)

先に触れたとおり、紹介されていることはすべて著者が実践したことばかり。しかし、意識しておくべき重要なポイントがあるともいいます。著者は「親」ではなく、「小学校の先生」だということ。

あくまで著者と子どもとの関係性があってこそのやり方なので、お父さん、お母さんが活用するためにはうまくアレンジする必要があるわけです。しかし、それは決して難しいことではないでしょう。子どもとよりよく向き合うためのヒントを、本書のなかからぜひ探し出していただきたいと思います。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年12月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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