『手帳と日本人』
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手帳からのぞく日本人の精神史
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
毎年、真新しい手帳に文字を書き入れていくと、あらたなスタートを切る気分になれる。手帳は、働く自分や生きていく自分を意識するためのよりどころになっていると思う。
効率的に、かつ確実に自分を管理したいという欲求が手帳文化を育てると同時に、その手帳がユーザーの働き方や生活意識に影響を与える。こんな興味深いテーマを追ったのが、舘神龍彦『手帳と日本人 私たちはいつから予定を管理してきたか』だ。
手帳という小さな窓から日本人の精神史という広大な風景を見る、スケールの大きさがいい。手帳には予定をいっさい書かず、もっぱら記録用に使うわたしのような少数派でも「自分もまたこの手帳文化に参加している人間だ」と気づくことができた。
旧日本軍の「軍隊手牒」から企業が配る「年玉手帳」にかけては、仲間である者の心得を書いたページが重要な意味をもっていた。社歌や社訓、日々の業務のための手引きなどである。その後、こうした手帳を通じて共同体に縛られる窮屈さからユーザーを解放したのが、システム手帳の登場だ。自分にとって必要な部分だけで編成でき、入れ替えも容易なシステム手帳は、自由さの象徴だったのだ。
現在の大ヒット商品である「ほぼ日手帳」、さらには身につける手帳としてのスマートウォッチにも言及しながら、紙の手帳のポテンシャルを語る。人生の持ち時間の使い方を考えるきっかけになる本だ。