<東北の本棚>挑戦続けた特撮の神様

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大空への夢

『大空への夢』

著者
鈴木和幸 [著]
出版社
大月書店
ISBN
9784272612376
発売日
2019/01/17
価格
2,200円(税込)

<東北の本棚>挑戦続けた特撮の神様

[レビュアー] 河北新報

 須賀川市出身の円谷英二(1901~70年)は「特撮の神様」と呼ばれ、「ゴジラ」「ウルトラマン」などの名作を生み出した。少年時代に飛行機乗りを志して以降、転職や挫折を経て映画、テレビ番組の製作に携わり、挑戦を続けた人生を紹介する。
 裕福な商家で生まれ育った英二は東京の飛行学校に入り、教師の墜落事故死に伴って退学する。都内の玩具会社に就職し、現在のキックスケーターに当たる遊具を開発して大金を得る。その金で散財した時、偶然出会った技師に見込まれて映画界入りした。
 さまざまなアングルで撮影できるクレーンなど映画の機材や技術を開発するものの所属会社と対立して冷遇され、理解者を得て特撮映画の製作に乗り出した。太平洋戦争中は戦争映画で才能を発揮するが、終戦によって公職追放となる。復帰後、「ゴジラ」の成功で一時代を築いた。
 著者は詳細な資料集めや聞き取りによって英二の心理状態や裏事情を解説。「ウルトラマンのタイトル案は当初レッドマンだった」といった逸話を盛り込んだ。
 物づくりが得意だった半面、完璧主義で金銭感覚が乏しかった英二。番組製作の締め切りや採算性を度外視して何度も撮り直しを命じ、高価な機材を買い込んだなどの欠点にも触れた。人付き合いが苦手で心を開いた人はわずかだったが、大の子ども好きだった。
 著者は1959年生まれ。英二の実家近くでクリーニング業を営み、須賀川商工会議所副会頭。「翔びつづける紙飛行機」など英二に関する評伝を手掛け、新資料を加えて集大成となる本書を完成させた。「新しい時代を切り開く人を育てるのは、その人を温かく包み込む周囲の愛情」だとして地元から「英二2世」誕生を願う。
 大月書店03(3813)4651=2160円。

河北新報
2019年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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