<東北の本棚>思い寄せ続け風化防ぐ

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あの日からの或る日の絵とことば

『あの日からの或る日の絵とことば』

著者
筒井大介 [編]/阿部海太 [著]/荒井良二 [著]/飯野和好 [著]/石黒亜矢子 [著]/植田真 [著]/及川賢治 [著]/大畑いくの [著]/加藤休ミ [著]/軽部武宏 [著]/きくちちき [著]/坂本千明 [著]/ささめやゆき [著]/スズキコージ [著]/高山なおみ [著]/tupera tupera 亀山達矢 [著]/寺門孝之 [著]/中川学 [著]/中野真典 [著]/nakaban [著]/長谷川義史 [著]/ハダタカヒト [著]/原マスミ [著]/樋口佳絵 [著]/穂村弘 [著]/牧野千穂 [著]/町田尚子 [著]/ミロコマチコ [著]/村上慧 [著]/本橋成一 [著]/本秀康 [著]/ヨシタケシンスケ [著]/吉田尚令 [著]
出版社
創元社
ISBN
9784422701202
発売日
2019/03/06
価格
1,870円(税込)

<東北の本棚>思い寄せ続け風化防ぐ

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災は人々の心にどのような跡を残したのか。発生から8年、日本を代表する絵本作家32人が震災にまつわる記憶を紡いだ。不安や寂寥感(せきりょうかん)、怒り、希望…。さまざまな心模様が言葉や色になった。東北出身の樋口佳絵(仙台市)荒井良二(山形市)坂本千明(三沢市)の3氏も寄稿した。
 つづられるのは作家本人のごく個人的なエピソードだ。ある者は津波がまちをのみ込むテレビ映像におびえ、ある者は電気料金の伝票を手に取る度に東京電力福島第一原発事故と福島の人々を思う。震災後に生まれたわが子に未来への期待と責任を見いだした者もいる。
 仙台に暮らす樋口さんは震災当日、停電した家の中で唯一光を放つ反射式ストーブを見つめていた。ふと子どもの頃のクリスマスを思い出す。大雪で停電した家の中で姉とストーブを囲み、父の帰りを待った記憶。「その赤さと小さな不安とを私は覚えている」と語り、しんしんと降る雪と赤々としたストーブの網を見つめる少女を描いた。
 荒井さんは人生を旅に例え、今を生きる人々に光明を見いだした。「洞窟の中を松明(たいまつ)のようなものを掲げ、一歩一歩進んでいる、ように思う」。震災後、喪失感に襲われた坂本さんが寄せた作品は「錨(いかり)」。「たとえじたばたしてでも錨は自分でおろすしかない」と言い聞かせる。
 日々の暮らしの中に「あの日」は確かに存在する。おのおのの気持ちや体験を率直に語り、思いを寄せ続けることが、震災を風化させないために必要なのだと改めて教えてくれる。
 創元社06(6231)9010=1836円。

河北新報
2019年4月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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