季節のない街・新宿での四季を通じた新米警察官の成長譚

レビュー

3
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新宿花園裏交番 坂下巡査

『新宿花園裏交番 坂下巡査』

著者
香納諒一 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396635619
発売日
2019/03/12
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

新宿「裏の顔」を見る交番が舞台“面白い趣向”の警察小説

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 香納諒一が一味違った警察小説を刊行してくれた。

 たとえば作中に「やつはヤクザで、おまえは警官なんだ」「おまえは警官を辞めれば済むが、やつらにはそんな逃げ道はないんだよ」という上司・重森班長の台詞がある。

“おまえ”は本書の主人公である新米巡査、坂下浩介、二十七歳。新米なのにこの年齢なのは、二年間勤めていた企業を辞めて警視庁に奉職したからで、“やつ”とは、高校球児だった坂下らの監督で、ある日突然ヤクザになった西沖のことである。西沖がなぜヤクザになったかは皆目不明で、彼は、坂下に「もしもまた、新宿のどこかで俺を見かけることがあっても、決して声をかけないでくれ」というが、果たしてその真意は如何に―。

 さて、坂下巡査が勤務している新宿花園裏交番。新宿駅の東口や西口の交番が、地理指導や遺失物等の届け出が多く、いかにも“表”のイメージが強く、一方、歌舞伎町や大久保の交番が、売春、暴力団同士の喧嘩など多忙でハードな花形であるのに較べ、こちらはゴールデン街や区役所通りが近いため、酒がらみのトラブルばかりで警官の配置人員も多く、「裏ジャンボ交番」と呼ばれている。

 が、坂下巡査が赴任後、なかなか難解な事件が多く、第一章「冬」では、師走の新宿で起きたサンタクロース暴行事件にはじまり、ホステスの一千万円超の箪笥預金盗難とさまざまな事件が多発する中、さり気ない伏線が生きてくる。

 第二章「春」は、祖父を訪ねて新宿に現われた少年をめぐる哀愁の老ピアニストと欲ボケした女の物語で、続く第三章「夏」は、静岡の老舗精密機械メーカーの御家騒動に新宿の暴力団が絡む物語。そして別れの第四章「秋」。

 通称“ビッグ・ママ”こと捜査一課一のやり手の美人シングル・マザー警部補など、準主役から脇役まで、魅力的な登場人物にあふれている。季節のない街・新宿での四季を通した主人公の成長譚でもある。

新潮社 週刊新潮
2019年5月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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