[本の森 恋愛・青春]『友達未遂』宮西真冬/『ボダ子』赤松利市

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友達未遂

『友達未遂』

著者
宮西 真冬 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065139653
発売日
2019/04/24
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ボダ子

『ボダ子』

著者
赤松 利市 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103524816
発売日
2019/04/19
価格
1,705円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[本の森 恋愛・青春]『友達未遂』宮西真冬/『ボダ子』赤松利市

[レビュアー] 高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員)

 宮西真冬氏の『友達未遂』(講談社)は、山奥にある全寮制の女子高校を舞台にした青春小説だ。学校には、3年生が新入生とペアになり、様々なことを教える「マザー制度」と呼ばれるものがある。家族の愛情に恵まれない孤独な新入生・茜のマザーは、伝説の卒業生の娘であり、少女たちの憧れの存在である桜子だ。人を信用しない茜は、親切で誰からも慕われている桜子を鬱陶しく思う。どこにいても堂々として見える1年生・真琴と、さっぱりした性格で人気の3年生・千尋は、共に美術専攻で、実力を評価されている。同じ部屋で生活をするこの4人を中心に、物語は進んでいく。

 誰かの悪意による小さな事件が立て続けに起こり、彼女たちの内側に秘められたものが少しずつ明らかになっていく。恵まれているように見える人物が抱えている生きづらさ。人に知られたくない嫉妬。隠していた復讐心。そして、迷いながら徐々に開いていく閉ざされた心。一筋縄ではいかない少女たちが、綻びを見せたり固まった感情を溶かしていく姿を、緊張しながら一気に読んだ。人の心は一色ではなく、様々な色合いの感情が混ざった誰かの心を受け入れることは、自分自身を知ることでもある。小説のようにドラマチックではないが、自分にもこんな経験があったなと思い出した。懐かしく、ちょっと心が痛い。

 感情を持っていく場所が見つからない。赤松利市氏の『ボダ子』(新潮社)を読み終え、そんな風に思った。主人公の浩平は、一度は事業で成功したものの、業績の落ち込みに苦しんでいる。4番目の妻がいるが、愛人もいる。好みの女のタイプは「薄幸」。「憐れんで、それでいて尚、甚振りたくなるような女」がいいのだそうだ。私生活では関わりたくない最低野郎である。そんな男でも前妻との間に生まれた娘には愛情を持っている。明るい青春を送っている少女ではない。境界性人格障害(ボーダー)であり、中学時代からリストカットを繰り返している。仕事が立ちゆかなくなり、愛人にも捨てられた浩平は、娘を連れ被災地に転居することを決める。

 ボランティア活動を始めた娘は、仲間から「ボダ子」という愛称で呼ばれ人気者になるが、復興バブルをあてにした浩平の仕事は軌道に乗らない。経済的に困窮する中で出会った「薄幸の女」に欲情し、自分のものにしようと悪知恵を働かせる。

 痛々しいやり方でしか愛情を求められず、男たちに利用されてしまうボダ子。モラルも誠実さも思いやりも持ち合わせず、その場限りの嘘とはったりで自分の欲望を満たそうとする浩平。悲しみ、虚しさ、怒り、嫌悪感、無力感。あらゆる負の感情がラッシュのように押し寄せてきて苦しい。刻々と近づいてくる破綻の時までを、きれいごと一切抜きで書き切っている。不愉快なのに再読したくなるのはなぜだろう。

新潮社 小説新潮
2019年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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