学び方の「答え」は一つではない――【自著を語る】『法学学習Q&A』を貫くコンセプト

レビュー

9
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法学学習Q&A

『法学学習Q&A』

著者
横田 明美 [著]/小谷 昌子 [著]/堀田 周吾 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/法律
ISBN
9784641126091
発売日
2019/03/22
価格
880円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【自著を語る】学び方の「答え」は一つではない――『法学学習Q&A』を貫くコンセプト

[レビュアー] 横田明美(千葉大学大学院社会科学研究院准教授)

「親しみやすく役に立つ、学生のためのQ&A!」と、キャッチーなフレーズを帯に記載していただいた『法学学習Q&A』。しかし、本書は本当に「学生のため」だけだろうか?――この場をお借りして、本書がいわば「学生向けに見せかけた誌上FD(ファカルティ・ディベロップメント)研修」の産物であることをご紹介したい。なお、執筆にあたり共著者の小谷昌子先生・堀田周吾先生にも意見や感想をいただいたのでできるだけ反映させているが、(乱文も含めた)文責は私個人にあることをお断りしておく。

 具体的な中身に入る前に、本書の概要を示しておこう。本書は3部構成であり、Part1:法学学習Q&Aでは、大学生活における学生の素朴な疑問に対し、複数の回答を用意した。

 Part2:法学学習の「推し本」は、学習のヒントとなるような優れた書籍について簡単な解説を付して紹介しており、各項目が独立したブックガイドとなっている。

 そして、書籍化にあたって追加されたPart3:法学学習特別ゼミは、授業内ノートと授業外ノートをどう構築していくかについて、実際に学生一四名と一緒にゼミを行った記録として編まれている。

***

 千葉大学に着任してわずか3年半、法学の学び方(裏返せば「教え方」)を試行錯誤していた若手教員である横田のもとに持ち込まれた企画、それが本書のもとになった「法学学習Q&A」(法学教室451号〔2018年4月号〕別冊付録)である。当初、一問一答式が想定されていたが、私は普段から抱いていた次の疑念を解消する機会としたかった。

 「学び方のコツを聞かれても、学生自身の置かれた環境、講義・演習、大学の特徴はそれぞれなのだから、答えが一つということはありえない。どうやって『学び方の答えは一つではない』ことを伝えられるだろうか?」

 目の前にいる学生相手であれば、表情や状況を伺いながら、色々手を変え品を変えて勧めることができる。しかし、文字で書き出してしまうと、あたかもそれが唯一の正解であるかのように強く受け取られてしまう……そんな悩みを救ったのは、Twitterの世界だった。本書「おわりに」にも書いたとおり、他の共著者はいずれも、学生の疑問に真面目に、しかしフランクに答えようとするツイートをしている教員である。つまり、自分が悩んでいたいくつかの「答え方」を、Twitterの世界を通じて「横から」見せていただいていたということになる。まさにこれを再現すればよいのではないか――こうして、(おそらく)有斐閣史上初の、「Twitter発、雑誌付録経由」の企画はスタートした。

 実際に執筆作業に入ってみると、「1つの質問に対して2、3人で答える」という形式(本書Part1:法学学習Q&A)はとても刺激的であった。執筆にあたり分担を決めるために何度も執筆会議を行ったのだが、これが予想以上に優秀な「FD研修」となったからである。

 幸運なことに、共著者3人は、出身大学・専攻科目・教員としての所属先が見事にバラバラ。そうすると、講義・ゼミの形式という基本的な事柄でさえ、いままで常識だと思っていた内容がまったく一致しない。国立・私立・公立大学の違いは思った以上に大きく、必修科目(民法)と選択科目(刑事訴訟法や医事法、環境法等)ではまた状況が異なる。時には、「え、そんなことあるんですか」と聞き返してしまうようなことさえあった。

 とりわけ重要な観点は、「今の学生のリアル」の共有である。法学教室別冊付録として出版したあと、Part1をご覧の同年代(30代後半)の読者から「今の学生は本を買わないんですね」とか、「あんな質問って本当に来るんですか」というコメントをいただいた。これらは執筆会議での私達自身の驚きでもあり、本書で読者と共有したい事柄でもある。

 はっきり言ってしまえば、本書は「法学入門」の本ではない。法学入門に必要なコンテンツは、他に優れた本が沢山ある(それが後述Part2のきっかけになった)。しかしこれまで足りなかったのは、「学び方について、なかなか言語化されてこなかった疑問を拾い上げ、暗黙知となっているコツを可視化する」ことである。そのため、Part1ではあえて「こんなことを聞いたら失礼なんじゃないかな?」と思いそうな形の質問を取り上げつつ、厳しめの回答をする回答者と、ちょっと違う角度からの回答をする回答者がバランスよく配置されるような割り当てをして、一問複数回答形式の誌面を作り上げた。

 たとえば「教科書や判例集はどの講義でも買うべき?」(Part1Q5)とか、「ネットでいろいろな法律の条文や解説が読めるけど……勉強に使っていい?」(Part1Q7)という質問は、これまで「そんなことを先生に聞くなんて」とためらわれていただろう。しかしよく考えてみると、私達よりも上の世代であれば、「講義中にオンラインのデバイスがあり、条文検索できる」という状況自体が自分の学生時代には存在しなかった。また、学生の経済状況の悪化を反映し、「勉強はしたいけどお金がない」という相談が年々増えていることもまた事実である。

 つまり、今の学生が不真面目だとか、不誠実だというのではない。これは一種の世代間ギャップである。質問はぶっきらぼうに見えても、きっと、どう頑張ったら良いのか分からず日々悩んでいる学生である。本書はそのような学生のために、学び方について考えるきっかけとなるよう企画された。

 執筆会議において、もう一つ大きな「暗黙知」があることが明らかになった。それは、推薦書(Part2:法学学習の「推し本」)である。昨今の出版状況では、新刊はすぐに書店の棚から消えてしまう。しかし、早めに手に取ってもらえれば人生が豊かになる本が沢山あるし、学部4年生になってはじめて「早く読んでおけばよかった」と気づく本もある。そうした本を集めていたら、大きなブックリスト(有斐閣ウェブサイト参照)になった。有斐閣の過去の名作や、他の出版社から出された意欲作など、横田研究室の学生向け貸出で反響の大きかった本や、執筆者の心に残った本を中心に選定した。Part1が教員の答えを「横から」眺める企画であるのに対して、Part2は学生に勧める本を「横から」眺める企画となっている。

 ここまでが法学教室別冊付録として収録していた内容であり、教員としての共著者たちからのメッセージである。書籍化にあたって追加されたPart3:法学学習特別ゼミは、更に一歩進んで、学生同士がお互いを「横から」眺めることを意図して企画した。2018年夏休みという時期設定もあって、さながら「有斐閣オープンキャンパス」のような状況で収録された(本書96頁以下)。横田(環境法・レジュメ配布)・小谷(医事法・レジュメ+医師法の条文+「タトゥー事件第1審判決」判決文)・堀田(刑訴法・PowerPointのスライドを上映・配布)がそれぞれのミニ講義(15分)を行い、実際にノートテイクをしてもらってから議論する形とした。多くの参加者にとって未修である先端科目を、あえて異なる講義形式で行ったというわけである。

 その後、ノートテイクの方法について、3班に分けた上でのアイデア出し、全体での質問項目選定、そして質問項目に対する回答案を考えるという手順を踏んだ。この過程すべてにおいて、参加学生の積極的な発言を得ることができた。その中には、教員側も唸ってしまうような活用法もあったし、学生同士でも「それは本当に有用なのか」と物議をかもす方法もあったが、まさに試行錯誤を「横から」見せるというコンセプトに沿った議論となった。また、Part1では必ずしも取り上げきれなかった百選や演習書を使いこなす「一歩手前」に存在する疑問を、浮かび上がらせるものになった。

 誌面でもこの熱気を反映させるため、「学生たちアイコン」と「先生たちアイコン」を作成していただき、学生の質問に他の学生が答えたうえで、教員が更に補足をするという、当日行われた議論の構造を維持したまま掲載する運びになった。また、「百選の使い方が分からない」という疑問には、執筆者目線も交えた解説をしたり(Part3Q8)、「実例が欲しい」という要望には、ノート作成例、判例六法への書き込み例、そして答案作成の手順(「答案が短くなりがちなSさんの答案」と「慎重に答案を書くPさんの答案」の作成過程)をいわば本人の肩越しにみるような説明を付記するかたちで掲載した(Part3Q7・Q9)。これらは、できあがった方法論を押しつけるのではなく、「アウトプットの過程ではこういうことを心の中で考えているんだよ」ということを法学初学者にもわかるかたちで可視化するための試みである。

 以上の経緯をご覧いただければ、本書が「学生向けに見せかけた誌上FD研修」であることはおわかりいただけるだろう。

***

 それでは、「Twitter発、雑誌付録経由」の方はどうなったのか。有斐閣営業部アカウントの協力も得ながら、Twitter上での投稿も盛り上がっていった。特別ゼミを実況中継するために作ったハッシュタグ「#法学学習QA」を中心として、共著者だけでなく特別ゼミ参加学生も、そして本書を楽しみにしてくださった読者の皆様も一緒に関連するツイートを投稿している。本書の記述に対する反応も様々であり、それもまた本書のコンセプトである「答えは一つではない」ことを体現している。つまり、Twitterでの投稿を通じて、読者の皆さんも本書を作り上げてくださっているのであり、この企画を進行中から発売後まで見守り続けてくださった皆さんに改めて御礼申し上げたい。

 本書を貫く「ゆるい」雰囲気は、有斐閣公式キャラクター「ろけっとぽっぽー」たちのおかげである。ぽっぽーの仲間たちと教員と学生が同じ世界観で共存する世界では、文字だけでは意図以上に厳しく伝わりかねない熱意を、親しみやすさを維持したまま誌面に反映することができた。本書とほぼ同時に、同じく「ろけっとぽっぽー」が大活躍する八木信一・関耕平著『地域から考える環境と経済――アクティブな環境経済学入門』(有斐閣、2019年)が発刊され、この記事が掲載される号の本誌に登場していると聞いている。環境法とも関わりの深い同書は(改訂の機会があれば)Part2で取り上げるべき書籍であり、「学習」への誘い方にも感銘を受けた。ぽっぽーの世界を通じて学びの場に誘われた読者の皆様が、両書籍を横断し、色々な本を飛び越えて学び続けてくださることを、心から願っている。

有斐閣 書斎の窓
2019年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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