<東北の本棚>震災伝える本当の言葉
[レビュアー] 河北新報
副題は「被災地の『言葉』をつなぐ文芸誌」。本当の言葉で語られたものを通じて東日本大震災の真実を知りたい。そう願う編者が東北を旅し、出会った人々に寄稿を呼び掛けて編んだ。
直接震災を経験したか、東北に移住するかした「当事者たち」と、出版や研究、地域づくりに携わる「被災地の言葉を集める者たち」で章を分けた。仙台市の出版社荒(あら)蝦夷(えみし)代表の土方正志さん、東北学院大教授の金菱清さんと同准教授の大沢史伸さん、アーティストの瀬尾夏美さん、福島県下郷町出身の芥川賞作家室井光広さんら13人が参加した。
未曽有の大災害の受け止め方は人それぞれ。大船渡市の復興住宅で住民交流会を世話する女性は、昔からの家にまつわる過酷な記憶を打ち明ける。震災はつらい出来事に違いないが人によっては「解放」となる場合がある。小さな声、公然とは語りづらい個別の繊細な事柄にも震災のリアルが宿る。本書に貫かれるこの姿勢は、表現をためらう多くの背中を押すだろう。
いわき市で集会スペースを運営する小松理虔(りけん)さんは「逃げ込める場。語ることのできる場。表現が許される場。場があることで、初めて表現は世に出る。これまで表現者だと自覚していなかった人が表現をし、表現者になっていく」と記す。持続的な場を作り、守ることが風化防止につながるとの指摘は、切実で示唆に富む。
クラウドファンディングで書籍化資金を集めた。「ららほら」は「ささいなうそ」の意味だという。編者は「フィクションを通じてこそ、語ることのできる『真実』がある」と信じる。本書につづられた文章は、自由な空想の産物というより個々の実践を誠実に積み上げたドキュメンタリー。続刊があるなら、震災経験から抽出された架空の物語をも併せて読んでみたい。
編者は1983年札幌市生まれ。批評家、日本映画大学専任講師。
響文社011(790)8713=1296円。