ナイツ・塙宣之が翻弄された「M-1グランプリ」東西漫才の比較考察は思わず一気読み!

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言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか

『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』

著者
塙 宣之 [著]
出版社
集英社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784087210873
発売日
2019/08/09
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

自身が翻弄された「M-1グランプリ」 東西漫才の比較考察は思わず一気読み!

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

“M-1グランプリ”という年に1度放送されるテレビ番組があります。吉本興業が主催する漫才のコンクールで、Mは漫才を意味します。2001年に始まり2010年で終了するも2015年に復活。暮にこの番組を楽しむお笑いファンは多く、紅白歌合戦と並んで師走の風物詩と言えるでしょう。

 頂点に立つには熾烈な戦いを勝ち抜かなければなりません。何しろ4000組を超える出場者なのですから。それでいて決勝戦の持ち時間はたった4分です。その4分間に彼らは全精力を傾けます。そして実力はもちろん、運と勢いのある者だけがトップに駆け上がるのです。

 その戦いにナイツとして相棒の土屋伸之とともに身を投じたのが著者です。ナイツは決勝に進むまで8年かかり、その最終決戦でも全7票中1票も入らず、3位でした。著者には、「予選ではどっかんどっかんウケていた」のにという思いがあります。そこで浮かび上がるのが本書、『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』です。

 吉本興業の主催ですから、関東芸人にはアウェイの戦いですが、それでも勝ち抜ける関東芸人もいて、著者は様々な考察をします。そもそも漫才とはどんな芸能なのか。東西の違いは何なのか。コントと漫才の違い。そして落語との接点。ナイツはなぜ頂点に立てなかったのか等、著者は漫才が、M-1グランプリが好きだからこそ、冷静に分析します。嫌なことであろうことまで聞くインタビュアーの手腕も見逃がせません。一気読みさせてしまうのですから。

 2018年、著者はそのM-1に帰ってきます。審査員としてです。過去のフラッシュバック、目の前で展開する漫才、そして著者はどのコンビを推すのか。ナイツを翻弄し、トラウマを植えつけつつなおも憧れ続けさせるM-1グランプリ。審査員席で感慨に耽る著者は、まるで小説世界の人物のようです。

新潮社 週刊新潮
10月17日菊見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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