<東北の本棚>大河流域の通史に挑戦
[レビュアー] 河北新報
福島、宮城両県を流れる東北第2の大河、阿武隈川流域の歴史と文化をまとめた。農業、養蚕など暮らしの営みを広範囲に取材した。大和朝廷による蝦夷(えみし)支配の最前線だった古代から、国策の実験場の役割を担った近現代までの通史に挑んだ。流域の全体像を知る入門書になり得るだろう。
地域の主産業を巡る先人の知恵と努力の跡をたどった。角田市の農業用水、同県丸森町が発祥の主要ブランド米のルーツ「愛国」と身近な題材を掘り下げた。日本有数の養蚕地帯だった流域の特性や、東日本大震災の被災地、同県亘理町荒浜の基礎を築いた舟運も紹介する。先人がいかに大地に根差し、誇りを持って生きたかを描こうとした。著者が河北新報社記者として流域で仕事をし、生活した体験に基づいた。
白河の関が物語るように、流域は古来、中央と東北がせめぎ合う場だった。源頼朝が藤原氏を滅ぼした奥州合戦の決戦地は福島県国見町だった。時に日本史の転換点となった舞台を、著者は「日本のルビコン川」と呼ぶ。思い入れ過剰な比喩か、想像力を膨らませた郷土史のイメージと捉えるか、読者の判断に委ねられる。
治水編は甘さがあった。下流の岩沼市、中流の郡山市など主要地域の対応に焦点を当てたが、全体を見渡す視点が乏しかった。台風19号の教訓に鑑みれば支流についても注意を払うべきだったろう。
一連のテーマの背景に、東京電力福島第1原発事故に象徴される近代化への問題意識がある。人間に都合よく自然を利用することを追い求めた近代。その超克にどんな価値観が可能かを問い掛けた。自然と共生する生活圏づくりを考える上で、子どもたちの学びに希望を託す姿勢がうかがえる。
2018年5月から19年4月まで河北新報で展開された連載に加筆修正した。
河北新報出版センター022(214)3811=880円。