「受賞作なし」の説明が欲しい吉川英治文学賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

5
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我らが少女A

『我らが少女A』

著者
髙村薫 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784620108421
発売日
2019/07/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

「受賞作なし」の説明が欲しい吉川英治文学賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 基本的に受賞作は出すものなんです。実際売り上げに影響があるのが、たとえ直木賞、芥川賞、本屋大賞だけであっても、原則、受賞作は出すものなんです。出さないのは、よほどのことと思し召せ。で、そのよほどのことが、第五十四回吉川英治文学賞で起こったらしいんですね。三月に発表された「受賞作なし」の五文字に、心中「えーっ」と声を上げたのは、わたくしだけではありますまい。

 エンターテインメント小説に与えられる賞の中で、もっとも知られているのは一九三五年に創設された直木賞ですが、次いで歴史が古く格式が高いのが、講談社が後援するかたちで一九六七年に生まれた吉川英治文学賞です。作品というよりは作家に与えられる賞として認知されており、対象となるのは、発表前年に「新聞、雑誌、単行本等に最も優秀な小説、評論、その他を発表した作家」。文芸関係の編集長や多分野の文化人など数百名に文書で推薦を依頼した上で、実施委員がその中から数名を選び、選考委員会に提出という流れになっています。

 基本的には一度受賞した作家に再び授与されることはなく、これまで松本清張、山岡荘八、司馬遼太郎、五木寛之、池波正太郎、宮尾登美子、井上ひさし、田辺聖子、野坂昭如、宮部みゆき、東野圭吾、赤川次郎などなど、エンタメ界の大物の名前が並んで信頼度が高いのではありますが、筒井康隆と星新一がとっていないことからわかるように、直木賞同様SFには大変冷たい文学賞です。

 これまで受賞作が出なかったのは第二十八回、第四十回、そして今回(選考委員は浅田次郎、五木寛之、北方謙三、林真理子、平岩弓枝、宮城谷昌光)のたった三回。そんなに二○一九年のエンタメは、不調だったんですか? 合田雄一郎シリーズ最新作『我らが少女A』を出した高村薫なんか、あげ時だったんじゃないかなあ。あと、書評がたくさん出た『彼女たちの場合は』の江國香織とか。近々出る「小説現代」5月号には選評が載るはずなので、それを楽しみに待ちますが、冒頭で書いたように「受賞作なし」はよほどのこと。説得力のある説明を望みます。

新潮社 週刊新潮
2020年4月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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