【児童書】『ここにいる』あおきひろえ作 日々の大切さを実感
[レビュアー] 中島高幸
日曜日には畑仕事や庭の手入れにいそしむ働き者のおとうさん。わたしたちをときどきひざに座らせて、万年筆で絵を描いてくれた。プールで遊んでいるとき、叱られて庭に隠れているとき…。いつもおとうさんがいた。
わたしは結婚し、おとうさんはおじいちゃんに。穏やかな日々も、やがて最期の時を迎える。旅立ちの日、庭の花が一斉に咲いた。
作者のあおきさんの自伝的作品。色鮮やかで温かな画風で、父と子の日々を丁寧に描き出した。最期の日は、寂しさや悲しい気持ちだけで送るのではなく、人生をしっかり生きたおとうさんを祝福する「おめでとう」の言葉に人生へのいとおしさがしみじみと伝わる。何げない日々の大切さ、豊かさが実感できる作品だ。
あおきさんは落語好きが高じ、自宅を寄席小屋にした「ツギハギ荘」の席亭も務めるなど、ユニークな活動を展開していることでも知られる。夫は絵本作家の長谷川義史さんで、夫婦で活躍中だ。(廣済堂あかつき・1500円+税)