お誕生会を通して現代的な問題を描く物語群

レビュー

7
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お誕生会クロニクル

『お誕生会クロニクル』

著者
古内一絵 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913663
発売日
2020/09/17
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

お誕生会を通して現代的な問題を描く物語群

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 子どもの頃、誕生日が待ち遠しかった。その日だけは主役として、多少のわがままも許される。友達の誕生会に招待されるのも妙に誇らしかった。しかし本書に描かれるお誕生会は決して無邪気なものじゃなく、現代的な問題を孕んでいる。

 七つの短編小説の冒頭「万華鏡」の主人公・岡野尚子は小学校の図工専科の教員。学校ではあるトラブルから児童間のお誕生会が禁止になったばかりだった。尚子自身、十歳の誕生日の苦い思い出がよみがえる。

 子どものお誕生会とは、一種の社会だ。どんな料理を振舞うかによって親のセンスがあらわれ、プレゼントにもアイデアが問われる。いち早いマウンティング―優位を示す主役を盛り上げて、客は客らしくその舞台を盛り上げなければならない。

 上手くいかなかった自らの誕生会をやり直すかのように、子どもの誕生会にエネルギーを注ぐ母を描いた「月の石」。肝心の娘は目立つことを嫌い、母のなすことを否定する。

 母主導で開かれる誕生会は、すれ違う子どもとの関係を浮かび上がらせる。一方、姪を喜ばせようと計画した誕生会「サプライズパーティー」では、持てる力を発揮したはずが、大きな落とし穴が待っていた。

 三・一一に生まれた双子の息子の誕生日を盛大に祝うはずが、新型肺炎の襲来で立ち行かなくなる「あの日から、この日から」。小説世界がコロナ禍の現在へと重なっていく過程が切ない。

 どんなに辛く悲しい日でも、人は生まれるし、誕生日を迎える人はいる。しかし災害や感染症といった出来事は、卒業や入学など大事な人生の門出の祝いも自粛させてしまった。

 せめて誕生日くらい祝いたい。祝ってもらうだけではなく、この世に生まれてきたことを自ら祝ってもいいのだ。

 一年に一度、心から喜べるように精一杯過ごしている。そう気づかせてくれた物語群。

新潮社 週刊新潮
2020年10月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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