『暗殺者の正義』
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“空白の時代”に現れた冒険小説の名手が描くスリリングな緊張感
[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「大統領」です
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1970年代から80年代半ばにかけて、ジャック・ヒギンズやクレイグ・トーマスの冒険小説に熱中していた読者は、その後の「冒険小説空白の時代」を耐えていくことになる。90年代、そしてゼロ年代は、めぼしい冒険小説がまったくといっていいほど、なかったのである。
そうか、もう冒険小説を読むことは出来ないのか、とほぼ全員が諦めかけていた頃に、颯爽と登場したのがマーク・グリーニーだった。それがあまりに鮮烈であったので「冒険小説の神が21世紀に降臨した」とまで書いてしまった。
『暗殺者グレイマン』から始まるマーク・グリーニーのシリーズは、ではなぜ私たちの鼓動を高めたのか。いきなり結論を書いてしまえば、アクション・シーンが素晴らしいのだ。そのディテールは圧巻である。それにもう一つ、主人公のコート・ジェントリーが「老人と子供に弱い」眠狂四郎的ヒーローであることにも留意。私たちの中に眠る「なつかしのヒーロー」像に近いものがあることも大きい。
『暗殺者の正義』はシリーズの第2作で、冒険小説の結構を色濃く持っているのが特色。スーダンの大統領暗殺をロシアのマフィアから依頼され、同時にCIAからは暗殺するふりをして拉致せよと依頼されたジェントリーがアフリカに潜入していく物語だが、全篇を貫く緊張感が半端ない。面白くて、スリリングなのだ。冒険小説がお好きな方には絶対のおすすめだ。