現役弁護士がエリート弁護士を描く “遺産相続”リーガル・ミステリー

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元彼の遺言状

『元彼の遺言状』

著者
新川 帆立 [著]
出版社
宝島社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784299012364
発売日
2021/01/08
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

現役弁護士がエリート弁護士を描く “遺産相続”リーガル・ミステリー

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 お馴染み『このミステリーがすごい!』大賞の第一九回大賞受賞作。著者は東大卒の現役弁護士、というと、いかにも真面目で端正なリーガルものと思われるかもしれない。確かにヒロインは一流法律事務所に勤めるエリート弁護士なのだが人柄に難ありで、彼女、剣持麗子は金に貪欲な高飛車女なのであった。

 物語はその麗子が婚約指輪が安物だという理由で恋人のプロポーズを一蹴する場面から始まる。翌日、事務所から提示されたボーナス額にも不満爆発、上層部とたもとを分かつ。話相手の女友達もいない麗子は、ふと三つ前の彼氏、森川栄治を思い出しメールを送るが、返信なし。六日後、栄治の世話人から、彼が亡くなり葬儀も済んだことを知らされる。

 事情を知るべく栄治の友人の篠田と会って話を聞くと、実は栄治は大企業・森川製薬の御曹司で、しかも不可解な遺言状を残していた。「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」というのだ。篠田によると死因はインフルエンザで、彼がうつしたものらしい。遺言には他殺でない場合は遺産は国庫に帰属させるとあったが、篠田は警察にバレずに遺産をもらえないかと麗子に相談。彼女はいったん断るものの、森川製薬の総資産に目がくらみ代理人になることに。

 かくて麗子は森川製薬の経営陣を相手に前代未聞の犯人選考会に臨むが、結果は保留。だが遺言状には、元カノたちにも軽井沢の土地と別荘を遺贈するとあり、彼女は元カノとして軽井沢に乗り込むのだった。

 出だしはありがちな婚活小説っぽいけど、その後元彼の死と奇妙な遺言状が呈示されるや、押しの強い麗子のキャラに引っ張られ、あれよあれよと話に乗せられていく。著者は女性が力強く活躍できる社会を願って女性のために書いたと述べているが、麗子パワーは男性読者も力づけるのでは。遺産相続もののリーガル・ミステリーとしてもよく出来ていて、最後の最後まで目が離せない。

新潮社 週刊新潮
2021年1月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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