• 教室が、ひとりになるまで
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  • 悪魔のトリック

異能バトルと青春ミステリの融合

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 魔法や超常現象といった要素を取り入れ、現実とは異なる世界での謎解きを描く「特殊設定ミステリ」が隆盛を極めている。その中でもひと際、異彩を放つ作品が浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』だ。

 私立北楓(きたかえで)高校で、一カ月間に三人の生徒が同じ文面の遺書を残して立て続けに自殺した。二年A組の垣内友弘は、同級生の白瀬美月から自殺について、とんでもない話を打ち明けられる。三人は自殺ではなく、「死神」によって殺されたのだ、と。白瀬の話が信じられない垣内だったが、その後、謎の手紙が彼の元に届く。手紙には垣内に「嘘を見破る能力」が与えられたこと、彼以外にも特殊な能力を持った生徒が三人いることが書かれていた。

 三人を自殺に追いやった「死神」は、能力を持った生徒のうちの一人なのか。そして「死神」はどのような能力の持ち主なのか。これが本書の謎解き小説としての目玉だ。自身に与えられた嘘を見破る能力で「死神」を探し出す垣内だが、その能力は万能ではなく、幾つかの制約が設けられている。限られた条件の中で能力を使い犯人と対峙する、異能バトルの趣向も本書には盛り込まれているのだ。

 特殊な能力を持ったもの同士が戦いを繰り広げる小説の元祖と言えば、『甲賀忍法帖』(角川文庫)をはじめとする山田風太郎の〈忍法帖〉シリーズだろう。多彩な技を持つ忍者達が、忍術の正体を見破り、あるいは相手の技を打ち破る策を講じる様子は、火花散る頭脳戦の物語として堪能出来る。〈忍法帖〉が生み出した異能バトルの系譜は、多くの漫画・アニメ作品にも受け継がれている。

 特殊能力バトルを、本格謎解き小説における犯人と探偵の対決と融合させた作品として、青柳碧人『悪魔のトリック』(祥伝社文庫)がある。地上に現れた悪魔によって、強い殺意を抱いた人間に一つだけ特殊能力が授けられる世界。能力を持った殺人者たちに、刑事の九条一彦が挑む。一見、役に立たなそうな能力をどのように駆使して犯罪を行ったか、という風変わりな謎解きが楽しめる。

新潮社 週刊新潮
2021年2月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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